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"Louis Armstrong, Charlie Parker." (Miles Davis summarizing the history of jazz)

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Lexicon Jazzo

簡単なジャズ用語辞典です。ジョンソン博士、あるいはビアズリーに(は程遠いけれど)倣って主観的な記述を多くしました。本当はクロス・リファレンスにしたかったのですが、書いているうちに混乱してしまい、上部にインデックスを置くに留めました。

【あ行】, 【か行】, 【さ行】, 【た行】, 【な行】, 【は行】, 【ま行】, 【や行】, 【ら行】, 【わ行】

【あ行】

RCAビクター 【あーるしーえいびくたー】
アメリカのメジャー・レーベル。1931年にRCA(Radio Corporation of America)がVictorを買収し、大レーベルになる。ビクター時代のODJB(オリジナル・ディキシーランド・ジャズバンド)の吹き込み以来の財産と、RCA時代のベニー・グッドマンはじめ数多くのスイング・バンドの吹き込みで、この時代を研究するには欠かせないレーベル。日本ではBMG Japanの扱い。
参考資料: RCA1, RCA2
アウト 【あうと】
アドリブの技法で、一時的に調性から逸脱して演奏すること。ソロの味付けに用いられる。上手く調子をはずすと「アウトした」と褒められ、下手に調子をはずすと「アウトだよ」と非難される。全部アウトしている場合はフリー・ジャズという。
アドリブ 【あどりぶ】
ジャズの根幹を成す要素で、即興演奏のこと。インプロヴィゼーションとも言う。テーマを忘れた時には最初からアドリブしてると言い張ることが可能。
イースト・コースト 【いーすとこーすと】
アメリカ東海岸のことで、要はニューヨークのこと。50年代の一時期、ジャズの中心地が西海岸に移ったかのように、ロスを中心としたジャズが盛り上がったが、その対抗軸としてニューヨーク中心のジャズ・シーンをイースト・コースト・ジャズと呼んだ。
インタープレイ 【いんたーぷれい】
ソロを順番に回していくのではなく、ある楽器のソロの時にも他の楽器が積極的に絡んで演奏を盛り上げていく技法。特にピアノトリオで、従来のピアノが主、ベースとドラムが従といった構成を廃して、ベースやドラムがピアノに積極的に絡んでいく手法を指す。ビル・エバンス~スコット・ラファロ~ポール・モチアンのピアノ・トリオがその嚆矢。
イントロ 【いんとろ】
曲の前奏部分。ここだけで名演が決まったりするので侮れない。
インプロヴィゼーション 【いんぷろヴぃぜーしょん】
即興演奏、アドリブに同じ。ただアドリブというと卑俗な感じがするのに対して、インプロヴィゼーションというと高尚な感じがするので、「オレのはアドリブではなくてインプロヴィゼーションだ」という人もいるが、実は同じこと。
ヴァーヴ 【ヴぁーヴ】
ジャズの大旦那ノーマン・グランツによって創立されたレーベル。JATPをはじめ、バードやレディー・デイ、ディジーやオスカー・ピーターソン、さらにスタン・ゲッツらの録音を膨大に有する大レーベル。そのカラーは、ノーマン・グランツの性格を反映して大物を適当に組み合わせて好き放題やらせる野放図なもの。そこがジャズらしいともいえる名レーベル。日本では、ポリドールの扱い。
ヴァース 【ヴぁーす】
歌のコーラスが始まる前に、まったく別のメロディーと歌詞を持った部分がある。省略する場合としない場合がある。名曲 "Stardust" では "And now the purple dusk of twilight time . . . The music of the years gone by" までがヴァース。
ヴァイブ 【ヴぁいぶ】
ヴァイブラフォンの略。下ネタを想像した人は即アウト。
Vディスク 【ヴぃーでぃすく】
第二次大戦中、前線の兵士慰問用に作られたレコード。12インチのヴィニール製で丈夫だった。戦後駐留軍の兵士などが小遣い稼ぎで放出。コレクターズ・アイテムとなった。
参考資料: v-disk1, vdisk2, vdisk3, vdisk4, vdisk5, vdisk6, vdisk7, vdisk8
ヴィレッジ・ヴァンガード 【ヴぃれっじヴぁんがーど】
Village Vanguard。ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにあるジャズクラブ。ここでソニー・ロリンズ、ビル・エバンス、ジョン・コルトレーンらが優れたライブ録音を残した。
ウェスト・コースト・ジャズ 【うぇすとこーすとじゃず】
50年代初頭、ハリウッドの映画産業が活況を呈して、多くの音楽家がロスを舞台として活躍した結果、この地に栄えたジャズのこと。白人中心で、みな譜面に強いため複雑なアレンジなどもこなせた。中心人物はジェリー・マリガン、ショーティー・ロジャース、デイブ・ブルーベックなど。しかし、多くのミュージシャンが映画のサントラなど仕事には不自由しなかったため、ジャズ的バイタイリティーを失い、50年代半ばから、再びニューヨークの黒人ジャズ(イーストコースト・ジャズ)に主導権を奪われていった。
歌もの 【うたもの】
ミュージカルの曲など32小節でA-A-B-Aの構造を持った曲。この歌ものの中で、特に多くのジャズ・ミュージシャンによって取り上げられる曲を「スタンダード・ナンバー」という。
8ビート 【えいとびーと】
伝統的な4ビートの曲に対して、ロックのリズムを持ったもの。「なんだい、8ビートじゃないか!」というのは否定的表現。
Aメロ 【えいめろ】
歌もののA-A-B-Aの構造のうち、Aにあたる部分。
SP 【えすぴー】
Standard Playの略でレコードの78回転盤。原材料がシェラックといってカイガラムシの分泌物を用いているため強度に難がある。また1枚3分半程度と録音時間が短く40年代後半にLPが発明されるや、たちまち取って代わられた。今でもSP盤マニアがいる。


目の覚めるようなすばらしい中音域のエネルギーが聴けます。

M-base派 【えむべーすは】
ブルックリン派。スティーブ・コールマンやグレッグ・オズビーの提唱した理論を「M-base理論」という。実体はよく分からないが、とにかくなんか新しい感じでアウトしたり、ビートを揺らしたりいろいろする人たち。
エリントニアン 【えりんとにあん】
デューク・エリントンの楽団にいた人たち。ジョニー・ホッジス(as)、ハリー・カーネイ(bs)ら。
LP 【えるぴー】
Long-Playingの略でレコードの12インチ33回転盤のこと。アメリカ人ピーター・ゴールドマーク(Peter Goldmark)が開発し、40年代後半から実用化された。録音時間が20分以上あり、アナログディスクの中心となっていった。
エレクトリック路線 【えれくとりっくろせん】
60年代からジャズに電気楽器を導入する傾向が起こり、こうした傾向に乗ったミュージシャンをこう呼んだ。「なんだい、あいつもエレクトリック路線に転換したのかい?」というのは、そのミュージシャンを否定している表現。
OJC 【おーじぇいしー】
80年代から、ファンタジー系のレコード(プレスティッジ、コンテンポラリー、リバーサイドなど)がOriginal Jazz Classicというシリーズで古い録音を再発した、そのシリーズ名。ジャケットにでかでかとOJCシールが貼られ、LPならフィルムの上に貼ってあるだけなのでフィルムごと剥がせばよかったが、CDではジャケットに直接印刷されていてファンを失望させた。盤自体もなんとなく粗製乱造の気配があるので音質マニアやジャケット・マニアからは嫌われている。しかし値段が安かったこともあり、ジャズに入門したい人の役に立ったのは事実。また音質も、フィル・デランシーのリマスターなどなかなか侮れない。
オクターブ奏法 【おくたーぶそうほう】
ギターの奏法で、オクターブ違いの同じ音を同時に弾くことで、力強い音色にする方法。ウェス・モンゴメリーの十八番である。
オムニバス 【おむにばす】
「コンピレーション」の古い言い方。

【か行】

カデンツァ 【かでんつぁ】
クラシック音楽の用語で、テンポなどに縛られず、ソロイストが自由に演奏できる即興部分。ジャズでは、全体が即興なので、テンポやコード進行に縛られずに単独で演奏する部分をカデンツァという。コルトレーンの "I Want to Talk about You" のカデンツァが有名。
紙ジャケ 【かみじゃけ】
CDで、プラスチックケースではなく、LPと同じように紙のスリーブに入れて往年の雰囲気を出したもの。プラケースに比べて薄いので収納しやすそうだが、縦横が長く、却ってCD棚に納まりづらいという欠点がある。
カンザス・シティー 【かんざすしてぃー】
アメリカ中西部、ミズーリ州とカンザス州にまたがる大都市。1930年代、民主党のトム・ペンダーガストが支配をし、禁酒法を無視してナイトクラブを堂々と営業させていたため、多くのジャズバンドが往来をし、カウント・ベイシー楽団やチャーリー・パーカーを生み出した。
キング・オブ・ジャズ 【きんぐおぶじゃず】
ポール・ホワイトマンという白人の太った男のこと。ガーシュウィンの『ラプソディー・イン・ブルー』などを演奏したりしてこの称号をつけられたが、どう見ても僭称なのでいつの間にか有耶無耶になった。
キング・オブ・スイング 【きんぐおぶすいんぐ】
ベニー・グッドマンに奉られた称号。「キング・オブ・ジャズ」と違い、こちらはある程度実態を反映しているので、今でもグッドマンのことを指すのに用いられる。
クァルテット 【くぁるてっと】
4重奏団のこと。ジャズでは管楽器(またはヴァイブラフォン)とピアノ・トリオによる編成を指すことが多い。
クインテット 【くいんてっと】
5重奏団のこと。ジャズでは2管+ピアノトリオによる編成を指すことが多い。
クール・ジャズ 【くーるじゃず】
激しく躍動する「バップ」に対する反動として理知的で抑制された雰囲気を持つジャズ。マイルスの『クールの誕生』(タイトルは会社が付けたもの)やレニー・トリスターノ派などがそう呼ばれ、ウェスト・コースト・ジャズもまたクールの流れを汲んでいる。音楽理論の基礎はバップと共有したもので、アンサンブルやアドリブ・ラインの雰囲気を指す言葉でもある。反対語は「ホット・ジャズ」ではなくて「バップ」である。
クラリネット 【くらりねっと】
木管楽器。ジャズでは初期のニューオリンズ・ジャズ以来使われ、華やかで素早い節回しに使われた。スイング・ジャズにおけるベニー・グッドマンによって一躍花形楽器に躍り出たが、モダン・ジャズの時代になって次第に使う人が減っていった。
クリシェ 【くりしぇ】
決まり文句。ジャズではアドリブの際に、いつも出てくる決まったフレーズのことを指す。枕詞は「陳腐な」。
コード 【こーど】
和音・和声のこと。ジャズでは曲のコード進行にもとづいてアドリブをする。
コード奏法 【こーどそうほう】
ギター奏法の一つ。和音のかたまりでアドリブ・フレーズを組み立てていくやり方。ウェス・モンゴメリーの十八番。
コーラス 【こーらす】
曲のひとかたまりの単位。いわゆる1番、2番というまとまり。
コール・アンド・レスポンス 【こーるあんどれすぽんす】
ビッグ・バンド・ジャズのアレンジの技法で、ブラス(金管)セクションとサックス・セクションが呼びかけと応答のように互いにメロディーを演奏していくパターン。フレッチャー・ヘンダーソン楽団のアレンジャー、ドン・レッドマンが、ルイ・アームストロングの演奏にヒントを得て作り出したといわれる。後にこのアレンジをベニー・グッドマン楽団が買い取り、スイング・ブームが起こったため、ビッグ・バンド・アレンジの基本形となる。
コレクティヴ・インプロヴィゼーション 【これくてぃヴいんぷろヴぃぜーしょん】
集団的即興演奏。初期のニューオリンズ・ジャズに見られる特徴で、ソロではなく合奏者全員が即興演奏を行う技法。シンプルなコード進行で調性内の音だけを使うので、混沌とすることはない。
コロムビア 【ころむびあ】
アメリカのメジャーレーベル。ジャズ史上最初の吹き込みといわれるODJBの録音以来、オーケイやブランスウィック、ヴォカリオンなどのレーベルを傘下に収め、大レーベルになった。サッチモ20年代の名演、ビリー・ホリデイのブランスウィック・セッション、ベニー・グッドマンの『カーネギー・ホール・コンサート』などジャズ史上重要な録音を数多く有する。モダン・ジャズの時代にはなんといってもマイルスの諸作品であり、50年代から70年代までジャズ界を揺るがす傑作が生み出されていった。現在ソニー・ミュージック・エンターテイメント(SME)の扱い。
コンテンポラリー 【こんてんぽらりー】
レスター・ケーニッヒによって創立された西海岸の名門レーベル。ウィリアム・クラクストンのジャケット写真とロイ・デュナンの録音によって東のブルーノートと全く対照的に、西海岸の明るさとからっとしたサウンドを特色とする。ベーシストのレイ・ブラウンが常に寄り添っているイメージのレーベルである。日本ではビクター・エンターテイメントの扱い。
コンピレーション 【こんぴれーしょん】
オムニバス。様々な音源から特定の方針に基づいて、楽曲を編集したアルバムのこと。ベスト集などが典型的なコンピレーションだが、中には有名人の選んだというだけで、あまり関連性のないコンピレーションも見られる。また、ジャズ・ファンにはオリジナル・フォーマットを尊重するピューリタニズムがあるため、コンピレーションだけでコレクションを構成している人などは失笑されることもある。有用な例としては、オリジナルではなかなか再発されない音源が、ひょっこりチョイスされている場合などがあり、このときはこぞってコンピを買う。
コンピング 【こんぴんぐ】
ソロのバックで弾かれるピアノのこと。バッキングとも言う。

【さ行】

サヴォイ 【さヴぉい】
ハーマン・ルビンスキーとオージー・カデナによって設立されたジャズのマイナー・レーベル。チャーリー・パーカーの絶頂期を捉えたレーベルとして名高い。日本ではコロムビア・ミュージック・エンターテイメントの扱い。
サキコロ 【さきころ】
ソニー・ロリンズが、56.6.22に吹き込んだアルバム『サキソフォン・コロッサス』の略。大名盤であるため、このように略して呼ばないと入門者であることがばれ、ベテラン達は恥ずかしくて買うに買えなく、花粉症を装ってマスクをかけたり、奥さんに頼んで購入する盤。音質強化CDが出たときにどさくさにまぎれて買うという手もある。
サックス 【さっくす】
サクソフォーンの略称。音域が高い順にソプラノ・サックス、アルト・サックス、テナー・サックス、バリトン・サックス、バス・サックスがある。ジャズのサックス奏法の道を開いたのはコールマン・ホーキンスで、これ以降ジャズの花形楽器になっていく。特にハード・バップ以降はテナー・サックスの一人勝ち状態が続いている。
サッチモ 【さっちも】
ルイ・アームストロングのあだ名。ポップスともいう。
サブトーン 【さぶとーん】
サックスの低音部で「ゾゾゾ」というような付帯音を伴ったサウンド。スタン・ゲッツのサブトーンは特に有名。
シーツ・オブ・サウンド 【しーつおぶさうんど】
コルトレーンのアドリブで、コード音を敷き詰めたように8分や16分を延々演奏していく奏法。「ロシアの子守唄」(『ソウルトレーン』所収)や「ロコモーション」(『ブルートレイン』所収)に聴くことができる。
CD 【しーでぃー】
コンパクト・ディスク(Compact Disk)の略。従来のレコードのように「溝(マイクロ・グルーヴ)」に振動を刻んで、レコード針で音を取り出すのではなく、フィルムにデジタル情報をプリントして、それをレザー光線で読み取って音に変換していく。CDが一般化したのは80年代だが、その頃は「コンパクトディスクは針では再生できません」などと、今では信じられないような注意がなされていた。
シカゴ・ジャズ 【しかごじゃず】
1920年代、シカゴのオースチン・ハイスクールを中心とした若い白人達が、黒人達のジャズを真似て演奏したスタイル。技術的に未熟だが、一生懸命さが伝わるヘタウマジャズ。エディー・コンドン、メズ・メズロウ、フランク・ティシュメーカー、バド・フリーマン、ジーン・クルーパが代表的。
シズル・シンバル 【しずるしんばる】
ドラムのシンバルに、リベット(鋲)が打ってあり、叩くと「シュー(sizzle)」と音がするもの。
ジャズ・ヴォーカル 【じゃずヴぉーかる】
普通のヴォーカルとの違いは、1)原曲のメロディーにこだわらない、2)スキャットを挟んだりする、3)大人っぽく歌う、などだが、雰囲気に左右されるところもあり、厳密な分割は難しい。たとえばエンタの神様に出ている「セクシー松山」は、原曲のメロディーどころか、曲そのものにもこだわっていないし、スキャットを挟むし、大人の雰囲気を出しているが、ジャズボーカルと呼ぶことには疑問がある。もちろん誰も呼んでいないが。
ジャズ曲 【じゃずきょく】
ジャズ・ミュージシャンが作った曲で、その後いろいろな人によって演奏されてスタンダード化したもの。セロニアス・モンクやタッド・ダメロン、ベニー・ゴルソンなどの作った曲に多い。
ジャズ・ファン 【じゃずふぁん】
1. ジャズしか聴かず、他の音楽に敵意を持ち、ライブには行かずに家でオリジナル盤を磨き、ジャズミュージシャンの生年月日やアルバムの録音日時の誤記に激しく憤り攻撃する人々(原義)。2. 他の音楽を広く楽しみながら、軸足をジャズに乗せ、ライブでも楽しく乗れる人々(転義、現代語法)。3. マンハッタン・ジャズ・クインテットやヨーロピアン・ジャズ・トリオを聴く人々(誤用法)。
ジャズ・ロック 【じゃずろっく】
8ビートのロックのリズムを導入したジャズ。リー・モーガンの『サイドワインダー』、ハンク・モブレーの『ディピン』、ルー・ドナルドソンの『アリゲーター・ブーガルー』などが代表的。
ジャム・セッション 【じゃむせっしょん】
レギュラーのバンドやグループではなく、ミュージシャンが集まって曲を題材に即興を繰り広げる演奏会。ミュージシャンのワークショップ(研究会)として活用される。特にミントンズ・ハウスでのジャム・セッションは有名で、ここからバップが発生したといわれる。
シンバル・レガート 【しんばるれがーと】
ドラム奏法の一つ。スイング時代のバスドラ4つ打ちの定常的ビートに代わって、シンバルがチンチキ・チンチキとビートを刻んでいく。バップによる曲の急速化に合わせてケニー・クラークが生み出した。
スイート・バンド 【すいーとばんど】
世界大恐慌の後、景気のいいジャズが一時的に廃れ、ストリングを入れて大甘なメロディーを演奏するバンドが輩出したが、これをスイート・バンド、あるいはサッカリン・バンドという。ジャズ的興味は薄いが、現代の「イージー・リスニング」にまで続く大きなスタイルである。ガイ・ロンバード楽団、レイ・ノーブル楽団などが代表的。
スイング・ジャズ 【すいんぐじゃず】
1935頃から40年頃まで全盛を誇った白人ビッグバンドのジャズ。発端はベニー・グッドマンの演奏をラジオ放送が流し徐々にファンがついてきたところに、ロスのパロマー・ボール・ルームでの大成功が報道され俄かに大ブームとなった。時期的に大恐慌からの復興期と重なり、全米のみならずヨーロッパやアジアも巻き込むブームとなった。グレン・ミラー楽団、トミー・ドーシー楽団、アーティー・ショウ楽団など絢爛たる白人バンドが活躍。スヰングと綴ると気分がでる。一般的には白人の新しい音楽だと思われていたので、エリントンやベイシーはスイング・ジャズの範疇では語られないが、このブームをきっかけにジャズを研究する人たちも現れた。
スキャット 【すきゃっと】
ジャズ唱法の一つで、歌詞ではなく「シュビドゥバ」とか「ブディウディ」などと擬音で歌う方法。「サッチモが歌詞の紙片を落として仕方なしに始めた」というのが都市伝説として伝えられているが、真相は当時からニューオリンズではよく用いられていた。歌詞のシラブルに制約されないため、メロディーを作り変えるときに使われる。ただビリー・ホリデイはスキャットを用いなかった。
スケール 【すけーる】
音階のこと。
スタンダード 【すたんだーど】
スタンダード・ナンバー。主としてミュージカルや映画、舞台用に書かれた歌曲の中で、ジャズでも頻繁に演奏される曲。『スタンダード曲集』と銘打った歌本が出ているが、その中で取り上げられているもの。
ストーリービル 【すとーりーびる】
ニューオリンズにあった遊郭街。ジャズはここを揺籃として生まれた。その後第一次大戦でニューオリンズが軍港となったため、ストーリービルは閉鎖され、ここで活躍していたジャズ・ミュージシャンは職を失い、多くの人は転職したが、一部の有能で希望に燃えた人たちがシカゴへと移った。その中の一人がルイ・アームストロングであった。
ストーリービル閉鎖については映画『ニューオリンズ』でルイとビリーの歌を背景に感動的に描かれている。
ストップ・タイム 【すとっぷたいむ】
ジャズ・アンサンブルの技法のひとつで、合奏を一斉に止め、そこでソロイストが自由にアドリブを繰り広げる。ルイ・アームストロングの初期の吹込みでは、このストップタイムを利用して精緻を極めるアドリブを展開したものが多く、アドリブ芸術の母体となった隙間であるといえる。
ストライド・ピアノ 【すとらいどぴあの】
ハーレム・ストライドとも言い、ライグタイム・ピアノから発達したピアノ奏法。右手でメロディーを弾きながら、左手の伴奏が鍵盤上のオクターブを超えた範囲を「ブンチャ・ブンチャ」と弾いてリズムをつける。指が大またでまたぎ越す(stride)ことからこの名前となった。ジェイムス・P・ジョンソンはこの大家で、セロニアス・モンクもこの流れを汲んでいる。
ストリングス 【すとりんぐす】
弦楽器のこと。ジャズでは特別な意味を持ち、ムード的な演奏にストリングスが入っていることから、「ひも(ストリング)付き」などと呼んで貶す人がいた。パーカーやクリフォード・ブラウンのストリングス物などは、こうして「ひも付き軟派ジャズ」として排撃されている時期があった。
スピリチュアル 【すぴりちゅある】
霊歌、とりわけ黒人霊歌のこと。ジャズでは題材としてよく用いられる。
セクステット 【せくすてっと】
6重奏団のこと。ジャズでは3管+リズムセクションの構成が多い。これ以上はセプテット(7)、オクテット(8)、ノネット(9)となる。
ソウル・ジャズ 【そうるじゃず】
60年代に登場した、ファンキーをより黒っぽくして黒人霊歌やブルースを題材としたジャズ。オルガンの使用、8ビートの導入といった特徴を持つ。近年「グルーヴもの」として再び脚光を浴びたが飽きやすい面もある。ビッグ・ジョン・パットンやベイビー・フェイス・ウィレットらオルガン奏者のブルーノートの吹き込みにその特色がよく表れている。
ソロ 【そろ】
独奏のこと。ジャズでは特別な意味を持ち、合奏のと合奏の間で各プレイヤーがその音楽的アイデアと技を全開にしながら即興演奏をしていく部分を指す。ルイ・アームストロングの目くるめくソロによってその重要性が認識され、ジャズの基本的な要素となったが、モダン・ジャズ期に入ると合奏とソロの比重は完全に逆転し、ソロが演奏の本質を決めるようになった。

【た行】

ダイアル 【だいある】
ロス・ラッセルによって設立されたジャズのマイナー・レーベル。サボイと並んで絶頂期のパーカーを捉え、また有名な「ラバーマン・セッション」を有している。日本ではEMIミュージック・ジャパンの扱い。

大恐慌 【だいきょうこう】
1929年10月に起こった株価の大暴落により引き起こされた、世界市場を巻き込んだ最初の大恐慌。ジャズに関して言えば、この後演奏や娯楽の仕事が激減したため、多くのジャズ・ミュージシャンが経済苦に陥り、ビックス・バイダーベックのような天才が命を落とした。
ダブル・タイム 【だぶるたいむ】
曲のテンポは変えずに、二倍のテンポを想定して演奏する方法。
中間派 【ちゅうかんは】
ビ・バップ以降のセッションで、リズムがモダン・ジャズのイディオムでやりながら、フロント・ラインがスイング・イディオムで演奏しているもの。ヴィック・ディッケンソン(tb)、バック・クレイトン(tp)、ハリー・"スイーツ"・エディソン(tp)、ボビー・ハケット(cor)などが代表的。
チューン 【ちゅーん】
曲のこと。例)タイトル・チューン:アルバムのタイトル名となっている曲。
チョッパヤ 【ちょっぱや】
急速調の曲の俗称。
ディキシーランド・ジャズ 【でぃきしーらんどじゃず】
一般にはニューオリンズ・ジャズと同一視されているが、本来は白人の演奏するジャズを指した。
ティン・パン・アレイ 【てぃんぱんあれい】
マンハッタンの28丁目でブロード・ウェイと6番街に挟まれたあたりを指し、音楽出版業者が集まっていたことで有名。「ティン・パン・アレイの曲」というと、ミュージカルなどで使われた曲を指し、スタンダード、あるいは歌ものと似た意味を持っている。
手癖フレーズ 【てくせふれーず】
アドリブの際、そのミュージシャンがついつい出してしまうフレーズのこと。悪い意味で使われるが、好きなミュージシャンの手癖フレーズだと「また出た!」といって喜ぶことも多い。
デッカ 【でっか】
レコード・レーベル。イギリス発のレーベルでアメリカ・デッカは1934年の設立。高音乱発期のサッチモやカウント・ベイシー楽団、ビリー・ホリデイの全盛期を捉えた音源を有する。カウント・ベイシーとの契約には逸話があり、このバンドを引っ張り出してきたジョン・ハモンドがコロムビアと契約させようとする矢先、デッカが掠め取るように契約を結ぶ。しかし、それは屈辱的な契約で、「バンドメンバー一人当たり」と思わせていた金額は「バンド全体に対する」金額になり、しかも印税なしというものであった。日本での扱いは複数の会社にまたがっている。
デュオ 【でゅお】
デュエット。二重奏のこと。ギターとベース、管楽器とピアノなどがある。リズム・セクションに同じ管楽器2本の構成を「テナー(サックス)・デュオ」などと呼ぶ場合もある。
電化マイルス 【でんかまいるす】
60年代後半からエレクトリックを使うようになったマイルス・デイビスを指す俗語。いくぶん非難の響きがあるため、ファンの前では使わない方が賢明。類語に通電マイルス。ニュートラルな表現では、エレクトリック・マイルス。
テンション 【てんしょん】
あるコードの音のルート(1度)、3度、5度、7度をコード・トーンといい、それ以外の音をオクターブ上に上げたときの度数で9度、11#度、13度の音をナチュラル・テンションといい、9(♭&♯)度、13♭度の音をオルタード・テンションという。どちらもコード・トーンだけでは物足りない時に味付けとして「緊張感(テンション)」をもたらすために使う。
転調 【てんちょう】
調が変化すること。明確に調号を変えて変化するものと、コード進行に内在して部分的に転調している場合とがある。例えば「枯葉」は内在的にGマイナーとB♭メジャーの平行調を4小節ごとに移動していく。
II-V 【とぅーふぁいヴ】
曲の結節点や転回点、終わりのケーデンスに見られるIIm7-V7というコード進行。m7コードから7thコードにいたるとき♭7th(of IIm7)→3rd(of V7) の動きが強進行となるためドミナント・モーションが感じられる。
トナリティー 【となりてぃー】
調性のこと。ある調の終止和音へと引きつける重力。
ドミナント・モーション 【どみなんともーしょん】
あるトナリティーへと引っ張られる重力を利用した、緊張→緩和という和声の動き。具体的にはV7→Iと示され、7thコードに含まれるトライ・トーン(三全音=全音程が三つ離れた響きつまり7thコードの3rdと♭7th)がIのrootと3rdに進行したとき解決したように感じられる人間の感覚を利用した音楽の技法。これをさらに分節化したのがII-V、あるいは3625である。
トラック 【とらっく】
CDで1曲の単位のこと。
ドラムス 【どらむす】
打楽器の一つで、ドラム・セットを指す。標準的な装備はシンバル、タム、ハイハット、スネア・ドラム、フロア・タム、バス・ドラム。
トランペット 【とらんぺっと】
バディー・ボールデン以来、ジャズの花形楽器にして、ジャズを切り開いてきた楽器。ルイ・アームストロング、ビックス・バイダーベック、ロイ・エルドリッジ、ハリー・ジェイムス、ディジー・ガレスピー、クリフォード・ブラウン、マイルス・デイビス。
トリオ 【とりお】
3重奏団のこと。ジャズではピアノ、ベース、ドラムス(あるいはギター)からなるピアノ・トリオや、ロリンズのピアノ・レスのように管楽器、ベース、ドラムスというような場合もある。日本ではピアノトリオの人気が非常に高い。
トリビュート 【とりびゅーと】
偉大なミュージシャンが亡くなったり、没後何周年というような機会に発表されるアルバム。そのミュージシャンの名曲や代表的演奏曲を納めるのが通例。ただ、中にはそのミュージシャンの名前にあやかろうと、商売っ気だけで編まれたトリビュートもあり、要注意。
トレーン 【とれーん】
ジョン・コルトレーンのニックネーム。「トレーンズ何々」というタイトルの場合、コルトレーンの曲であることが多い。コルトレーンのファンには一途な人が多いので、ふざけた言葉遣いは厳禁である。
トロンボーン 【とろんぼーん】
ジャズでは、初期のリズム的な奏法から、ジミー・ハリソン、J.C.ヒギンバッサム、ジャック・ティーガーデンらを経て、J.J.ジョンソンという不滅のモダン・トロンボーン奏者へといたる。J.J.を除くと、どちらかというと穏やかな音色で長閑な演奏が多く、トランペットの鋭さやサックスのすばしこさとよい対照をなす。

【な行】

ナンバー 【なんばー】
曲のこと。オープニング・ナンバー。
2管編成 【にかんへんせい】
金管や木管楽器が2本にリズムセクションの加わった編成。クインテットになる。ハード・バップ時代は、2管編成の黄金時代でもあった。
ニューオリンズ・ジャズ 【にゅーおりんずじゃず】
ジャズ誕生の姿は誰にも分からないが、ニューオリンズで演奏されていた黒人による初期ジャズの演奏スタイル。ニューオリンズ・アンサンブルやコレクティブ・インプロヴィゼーションと呼ばれるように、アンサンブルが中心の演奏であったことが窺われる。
ニューオリンズ・リバイバル 【にゅーおりんずりばいばる】
40年代に興った、古いジャズの復興運動。スイング時代を経て「学問的・歴史学的」にジャズを捉えた人たちが、ニューオリンズに赴いて初期の姿を発掘しようとしたエートスの用語でもある。この運動を経てバンク・ジョンソンやジョージ・ルイスといったアーチストが再び脚光を浴び、ニューオリンズ・ジャズの姿がはっきりと分かるようになった。それは集団的なアンサンブルが多いことや、意外なほどに宗教歌が多用されたことなどである。バップ運動の最中のことで、多くの黒人ミュージシャンはニューオリンズリバイバルに関心がなかったといわれるが、ジョージ・ルイスとジェリー・マリガンとの会話、あるいはジョージ・ルイスとロリンズの邂逅を捉えたスナップなどは感慨深いものである。

【は行】

パーカー・スタンダード 【ぱーかーすたんだーど】
ジャズ曲の一種で、パーカーの作曲で、後に多くのミュージシャンによって演奏されていったいくつかの曲をこう呼ぶ。「コンファメーション」「スクラップル・フロム・ジ・アップル」などが代表的。
バークス 【ばーくす】
ディジー・ガレスピーのあだ名。「ディズ」は分かりやすいがバークスも彼のあだ名である。
バード 【ばーど】
チャーリー・パーカーのあだ名。バードランドは彼にちなんで名づけられた。また浅田彰氏は「飛ぶことへのエートス」というテーマで、音楽における鳥への希求についてエッセイを書いてる。
ハード・バップ 【はーどばっぷ】
イースト・コースト・ジャズと近い概念であるが、1950年代に西海岸のジャズブームに代わってニューヨークを中心に起こったジャズのスタイル。結局バップなのだが、アレンジが加えられていて、バップのように曲が異常に無視され、ほとんど符丁のような扱いになっているのと比べると、もう少し曲や全体のバランスにも配慮したバップの形式。マイルスの『ディグ』をその嚆矢として、56年というモダンジャズ全盛期を中心に共通したスタイル。
バードランド 【ばーどらんど】
チャーリー・パーカーにちなんで名づけられたマンハッタンのクラブ名。パーカーの死後もコルトレーンをはじめ、数多くの優れたライブ演奏を生み出していった。
ハーフ・タンギング 【はーふたんぎんぐ】
サックスの奏法の一つで、舌をリードに軽く当てることで音をぼかしたり消音する技法。息に頼らずにアクセントのメリハリをつけるときに用いられる技法。
ハーフ・バルブ 【はーふばるぶ】
トランペットの奏法の一つで、バルブを少し下げることで、音色に彩をつける技法。リー・モーガンが多用し、よく語尾に「クイクイ」というフレーズをつけた。
ハーモロディック理論 【はーもろでぃっくりろん】
オーネット・コールマンが提唱した理論で、どうやらハーモニー、メロディー、リズムを統括した理論らしい。実体を分かる人は少なく、オルゴン理論のような疑似科学の匂いが漂うような理論。
ハイハット 【はいはっと】
2枚のシンバルを向かい合わせにスタンドにセットし、スティックやブラシで叩いてリズムを刻んだり、ペダルを踏み込んで音に彩をつけたりするドラムセットの一つ。
バグス 【ばぐす】
ミルト・ジャクソンのニックネーム。目の下のふくらみ(bag)から名付けられた。曲名に「バグス...」などとある場合彼の曲。
パシフィック 【ぱしふぃっく】
リチャード・ボックによって創立された西海岸のレーベル。ウェスト・コーストジャズの典型でチェット・ベイカー、ラス・フリーマン、ジェリー・マリガン、バド・シャンクなどが代表アーティスト。ウィリアム・クラクストンの写真を使ったジャケットが美しく、同レーベルのオリジナルは時にブルーノート以上の高値となる。日本では東芝EMIの扱いだったが、東芝が資本を引き上げてEMIジャパンの扱いとなった。
バスドラ 【ばすどら】
ドラムセットの一つ。足で踏んで叩く低い音のドラム。ベニー・グッドマン・コンボのジーン・クルーパは、このバスドラさばきが絶妙で、彼の在団中はベーシストを雇う必要がなかったといわれる。
バッキング 【ばっきんぐ】
ソロの後ろでする演奏。ピアノに関しては最近コンピングと言う。
バップ 【ばっぷ】
1940年代初頭に起こった、ジャズの革新運動。あるコードで使える音の幅(ハーモニック・バリエーション)を広げ、スイング時代までに聴かれた従来のサウンドと比べて緊張感が高いのが特色。ギターリストのチャーリー・クリスチャンがハーモニーの拡大とリズム・パターンの変化を示唆し、彼と共にミントンズ・ハウスでセッションを努めていた、セロニアス・モンク、ディジー・ガレスピー、ケニー・クラークらがそれぞれの楽器で、新しい音楽運動を展開した。これらの流れを集大成し、それを超絶技巧で再構築したのがチャーリー・パーカーである。彼によってそれまでの流れが一本化してバップ、あるいはビバップという形になったといえる。また、現在の「ラップ」のように音楽的な面だけでなく文化的な面にも影響を及ぼし、バップ族(今で言えばラッパーやB系か?)という風俗も生み出した。デクスター・ゴードンが映画『ラウンド・ミッドナイト』で「バップは懲役逃れの連中が作り出した」と言っているように、社会史的、人種問題的な要素が複合して生まれた音楽運動であることは疑いない。その面でもラップに似ている。
パブロ 【ぱぶろ】
ヴァーヴの創設者ノーマン・グランツが設立したジャズ・レーベル。彼の性格はここでも反映されて、実におおらかというか適当なミュージシャンをピックアップしてとにかく吹かせるといった姿勢が見られる。ジャケットも予算の関係か大雑把なものが多く、ただセッションのワンシーンを白黒で印刷したようなものも多い。したがって、「パブロみたいなジャケット」というのは否定表現である。ただ内容は素晴らしいものも多い。
バラード 【ばらーど】
学術的には民謡のことを指し、とりわけ韻の構造(rime scheme)がx-a-y-aとなるものを指すが、ジャズではスローテンポのスタンダードを、特にバラードと呼ぶ。ムード的に流れるか、きりっと一本ジャズのテイストを残すかが問われるので、バラード演奏はジャズ・ミュージシャンにとってきわめて重要な場合となる。
バラッド 【ばらっど】
バラードに同じ。ただバラッドというと文学的な原義に近い。
ピアノ・トリオ 【ぴあのとりお】
ピアノ三重奏。ピアノ三台ではなく、ジャズではピアノ+ベース+ドラムス、あるいはドラムスの変わりにギターが入る編成が多い。日本でもっとも好まれる編成。
B♭循環 【びーふらっとじゅんかん】
リズム・チェンジに同じ。
Bメロ 【びーめろ】
歌ものの曲構造で、AABAのBの部分。曲全体の調と一時的に離れたりメロディーに変化をつけたりと自由になるパート。日本語では「サビ」といわれる部分。
ビッグ・バンド 【びっぐばんど】
ジャズの楽器編成の中で、金管+木管+リズム隊で17人程度の編成となるバンドをビッグ・バンド、またはフル・バンドという。金管はトランペットとトロンボーンの2パートが標準で、木管はアルト、テナー、バリトンのサックスが標準。クラリネットやソプラノ・サックスを導入してサウンドの肌理を変えることもある。リズム隊はピアノ、ギター、ベース、ドラムス。
ファンキー 【ふぁんきー】
1. タバコ臭いことから来た言葉で、臭いこと。2.50年代後半から、ホレス・シルバーらによって導入された黒人的な粘りのあるジャズ。ファンキー・ジャズ。3. 黒人的な粘りのある演奏を形容することば。いずれの場合も「フォンキー」という感じで発音するとアメリカでは通じやすい。
4バース 【ふぉーばーす】
ジャズのソロの一部で聴かれる、楽器が4小節ごとにソロを取り合う部分。4バースとは"four bars" つまり4小節のことで、正式には「フォー・バーズ・チェンジ(交換)」という。サラ・ヴォーンの「バードランドの子守唄」における4バースは絶品である。
4ビート 【ふぉーびーと】
ビートの1つで、4/4拍子で4分音符を基礎にしたビート。ジャズの基本となるビートである。
ブギウギ 【ぶぎうぎ】
シカゴで起こったピアノ・スタイル。家賃を相互扶助するために黒人街で開かれていた「ハウス・レント・パーティー(家賃パーティー)」で発案されたスタイルで、左手のベース・パターンが同じ音を2度ずつ、例えばドド・ミミ・ソソ・ララと上がり、シ♭シ♭・ララ・ソソ・ミミと降りていくような構造を持つ。この音楽が広く市民に知られるようになったのは、ジョン・ハモンドによる『フロム・スピリチュアル・トゥー・スイング』というカーネギー・ホールのコンサートでのこと。これを聴いたジャズ好きの会社員アルフレッド・ライオンがて、ブギウギ・ピアニストのアルバート・アモンズ、ミード・ルクス・ルイスに録音を申し出、偉大なる「ブルー・ノート」レーベルは始まった。
吹き込みスト 【ふきこみすと】
1942年、著作権をめぐってレコード会社と音楽家組合が対立し、1年以上続いたレコーディング・ストライキ。ジャズではこの間、急速にビ・バップが形成されていったのだが、このストライキのせいで記録が不十分となったため、その損失を惜しむ声は高い。
フュージョン 【ふゅーじょん】
70年代に入って、マイルスのはじめた8ビート、エレクトリック・サウンドを基にして、よりポップで聴きやすい形態の音楽が生まれた。最初は様々なジャンルの交錯したものという意味で「クロス・オーバー」と呼ばれていたが、80年代に入ると融合を意味する「フュージョン」という言葉が一般的になった。ジョー・ザビヌルとウェイン・ショーターを中心としたユニット「ウェザー・リポート」がその最高峰であったが、このグループが解散したあと、徐々にそのジャンルとしての力を失いイージー・リスニングのようになってしまった。今ではファミレスやデパートでよく流れている。いかしたラーメン屋やいきがった蕎麦屋で4ビートジャズを流しているのとは対照的である。
フラジオ 【ふらじお】
フラジオレット。サックスの奏法の1つで、通常音域よりも高い音を、倍音成分を取り出すことによって出す技法。特殊な運指と息の出し方によって取り出し、熱のこもった感じの演奏になる。
フリー・ジャズ 【ふりーじゃず】
60年代に入って、オーネット・コールマンの登場をきっかけにして生まれた無調のジャズ。オーネットに続いて、コルトレーン、アルバート・アイラー、ドン・チェリー、セシル・テイラーなどがこのジャンルに挑んだ。聴きやすいものと聴きにくいものがあり、聴きにくいものに当たると辛い。
ブルース 【ぶるーす】
1. 構造としてのブルース。12小節で構成され、I-I(IV)-I-I IV-IV-I-I V-IV-I-Iという和声構造で展開される。歌詞がつく場合、最初の4小節と2番目の4小節は同じ歌詞の繰り返しとなり、3番目の4小節の歌詞だけが変化を見せる。2. ジャンルとしてのブルース。

ブルーノート 【ぶるーのーと】
1.ブルースを構成する音階。またはそのミとシの半音下がった音。2.ベルリンから渡米したユダヤ人アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフによって創立された名門レーベル。はじめはブギウギ、トラディショナル、スイングなどを専門として発足したが、戦後モダンジャズを扱い始め歴史に燦然と輝く名盤の数々を生み出す。フランシス・ウルフの写真、リード・マイルスのジャケットデザイン、ヴァン・ゲルダーの録音とすべて一級品のレーベルである。日本では東芝EMIの扱いだったが、最近東芝が資本を引き上げてEMIジャパンの扱いとなった。3.ジャズクラブの名前。世界各地にある。(一部を除いてチェーン店ではない)4.ジャズのHPでよく見かけるハンドルネーム。
ブルックリン派 【ぶるっくりんは】
M-base派参照
プレズ 【ぷれず】
レスター・ヤングのニックネーム。ビリー・ホリデイの命名。大統領(president)という意味。
プレスティッジ 【ぷれすてぃっじ】
太った男、ボブ・ワインストックによって創立された東海岸のジャズレーベル。「サキコロ」「ing四部作」など、名盤中の名盤がこのレーベルから生み出された。ただし、ボブ・ワインストックは、その性格を反映してミュージシャンとに関係に情けないエピソードが多い。これは心温まるエピソードの多いアルフレッド・ライオンと対照的。日本ではビクター・エンターテイメントの扱い。
ベース 【べーす】
コントラバスのこと。クラシック音楽ではアルコ(弓)弾きされるか、ピチカートといって摘み弾かれるが、ジャズでは指板方向に押し付けるように弾く。ジャズの基底部を支えると共に、アドリブの場合ベースを聴きながらラインを作っていくことが多いのでとても重要なパートである。
ベンド 【べんど】
器楽の奏法で、音をしゃくれさせる技法。管楽器の場合はのどの形を変化させ、弦楽器の場合は指のポジションを微妙に揺らすことで取り出される音。
ホット・ジャズ 【ほっとじゃず】
スイート・スタイルに対する語。20年代後半、大恐慌時代にメロディー通りに甘い旋律を演奏し、ストリングスを加えたりした「スイート・スタイル」に対して、創造的なソロを駆使したジャズをホット・ジャズと呼んだ。元はユーグ・パナシェの『ル・ジャズ・オット』から来ている。決して「クール・ジャズ」の対義語ではない。

ホット・ジャズ⇔スイート・スタイル
ビ・バップ⇔クール・ジャズ

となる。ホット・ジャズとビ・バップは系譜的につながりがあるが、スイート・スタイルとクール・ジャズとは全く無関係であることに注意。

ポップス 【ぽっぷす】
1. ルイ・アームストロングの音楽家内でのニックネーム。ジャズの「父親」という意味である。2. 流行音楽のこと。ジャズファンはとかく敵視したり、否定語として「あれはジャズじゃなくてポップスだろう」と言い捨てる。

【ま行】

マイナー 【まいなー】
1. あまり売れていない、多くの人に知られていない音楽家や曲、ジャンルや会社のこと。2. 短調のこと。
マイナー・レーベル 【まいなーれーべる】
コロムビア、RCAビクターのような大手と、デッカのような中堅以外の、ジャズだけに特化した個人経営的なレーベル(レコード会社)のこと。ブルーノート、コンテンポラリー、プレスティッジ、ヴァーヴ、パシフィックなどがある。もっともこうしたレーベルは有名でもあり、名作も多いので「大手マイナーレーベル」などと矛盾した呼び方をされる。
ミュート 【みゅーと】
トランペットやトロンボーンに装着する器具で、音をこもらせたり、弱小化させたり、あるいは音色を変化させるために、ベル(先端)に挿して使う。ディズにせよマイルスにせよ、音を小さくするというより、鋭さを出すために用いている。
ミントンズ・ハウス 【みんとんずはうす】
40年代、ハーレムにあった伝説的なジャズクラブ、「ミントンズ・プレイハウス」のこと。オーナーはテナー奏者のヘンリー・ミントン。深夜バンドの営業を終えたミュージシャン達が、自分のアイデアと技量を持ち寄ってジャム・セッションを繰り広げ、ビ・バップの母体になったといわれる。ハウス・ピアニストがセロニアス・モンクであり、ジェリー・ニューマンが携帯録音機を持ち込んで捉えたチャーリー・クリスチャンの演奏はビ・バップの誕生を窺える名録音として、『ミントンズ・ハウスのチャーリー・クリスチャン』というアルバムになった。
メイン・ストリーム 【めいんすとりーむ】
物事の主流。ジャズの文脈では、60年代以降、フリー・ジャズやエレクトリック路線、そしてフュージョンに行かなかった音楽をこう呼ぶ。基本的にはマイルス以降のアコースティック+モードジャズを指す。
メジャー 【めじゃー】
1. 有名なもの、大手に属するものの総称。2. 音楽で長調。3. アメリカのベースボール・リーグ。
モード 【もーど】
音階、旋法のこと。ジャズの文脈では50年代後半に、コード分解によらず数小節にまたがって基底となる旋法を設定し、それに基づいてアドリブをとるスタイルの事をモード・ジャズと呼ぶ。これはマイルス・デイビスの『マイルストーンズ』あたりから試され、『カインド・オブ・ブルー』において完成された。モードに基づく演奏ならば、ペンタトニックやブルース・スケールだけで演奏される曲も「モーダル」と言えるかもしれないが、通常は調性感を希薄にして浮遊するような印象を与えるモダンジャズについて言われる。
モダンジャズ 【もだんじゃず】
40年代のビ・バップに端を発した、スイング時代までのジャズとはコンセプトも印象も全く異なるジャズ。ビ・バップ~クール・ジャズ~ハード・バップ~モード・ジャズとその変形であるファンキーやソウル・ジャズなどを指し、フリー・ジャズとフュージョンはこれに含めないのが普通。

【ら行】

ラグタイム 【らぐたいむ】
20世紀初頭に生み出されたピアノ奏法で、ブルースを基礎とし、シンコペーションの強いリズム構成からなる音楽ジャンル。ジャズ、とりわけハーレム・ストライドに強い影響を与え、また初期のジャズでは「何々ラグ」という曲名の曲が多く用いられていた。スコット・ジョップリンがラグタイム王と呼ばれていた。
リズム・セクション 【りずむせくしょん】
ジャズの場合、ピアノ、ベース、、ドラムスのピアノトリオを基礎に、ギターまでをリズム・セクションと呼ぶ。ただしこの場合、管楽器が含まれている必要があり、ピアノトリオ単独やギターが加わっただけの編成をリズム・セクションと呼ぶことはない。有名なリズムセクションとして、マイルスのクインテットのリズム・セクション、すなわちレッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)が「ザ・リズムセクション」と呼ばれていた。
リズム・チェンジ 【りずむちぇんじ】
B♭循環。ジャズ楽曲の形式の一つで、「アイ・ガット・リズム」のコード進行(チェンジ)に則った曲を「リズム・チェンジ」と呼ぶ。Aメロの部分はI(IIIm7)-VI7-IIm7-V7(いわゆる1625)で進行し、Bメロ(サビ)の部分はIII7-VI7-II7-V7と進む。循環形式を用いた有名な曲としてはパーカーの「アンソロポロジー」やロリンズの「オレオ」がある。
リバーサイド 【りばーさいど】
耳の大きいオリン・キープニューズによって創立されたレーベル。ビル・エバンスの「リバーサイド四部作」が有名だが、モンクもブルーノート、プレスティッジと移籍し、このリバーサイド時代に一般的な人気がでるようになった。彼の傑作といわれる「ブリリアント・コーナーズ」「モンクス・ミュージック」「セロニアス・ヒムセルフ」などはこのレーベルの作品。日本ではビクター・エンターテイメントの扱い。
リフ 【りふ】
ジャズの場合、スパンが短く何度も繰り返されるフレーズのことをリフという。カンザス・シティージャズ、とりわけカウント・ベイシー楽団の楽曲に多く用いられた。
リマスター 【りますたー】
古い録音のマスターテープからデジタル・オーディオを作成する際に、ノイズを除去したり音を鮮明にするために行う処理のこと。この処理の際に音の印象が変わることがある。これは誰がどういう美意識に基づいてリマスタリングをしたかによるため、「だれだれによるリマスター」ということを、オーディオ・ファンのみならずジャズ・ファンも重要視する。
リム・ショット 【りむしょっと】
ドラムのスネアのリムを叩くことで、刺激的な合いの手を入れる技法。フィリー・ジョー・ジョーンズのリム・ショットが特に有名で、「フィリー・ショット」と呼ばれている。
リリシズム 【りりしずむ】
枕詞。後ろにビル・エバンスをとる。その他の人名の場合でも、白人のピアニストであることが多い。意味は叙情的なということであるが、柔らかい叙情性よりも硬めの叙情性によく使われることのほうが多いようである。
レコーディング・エンジニア 【れこーでぃんぐえんじにあ】
レコーディング技師のこと。ジャズではプロデューサーや技師による美意識の違いがレコードの音色に反映されるため重要視される。特にルディー・ヴァン・ゲルダーやロイ・デュナン、レイ・ファウラーといった技師は、それぞれ個性的な音録りをして名盤を多く残している。
レディー・デイ 【れでぃーでい】
ビリー・ホリデイのニックネーム。レスター・ヤングが命名したといわれるが、実は彼女の母親につけたニックネームらしい。
ロイク 【ろいく】
日本語で「黒い」の逆さ読み。曲や演奏に粘りやブルース感など黒人的な要素が濃厚なものを指すときに使われる。

【わ行】

若手4ビート 【わかてふぉーびーと】
80年代のウィントン・マルサリス以降、フュージョンや実験的な方向に進まず、50年代から60年代に完成されたハード・バップやモード・ジャズのフォーマットで90年代、そして21世紀に演奏している若者達。彼らのあり方には賛否両論ある。
ワン・ホーン 【わんほーん】
リズム・セクションに加えて、管楽器が一本だけの編成。管楽器のミュージシャンがリーダーになることが多く、サウンドがよく聴こえるため、そのミュージシャンの代表作となることが多い。