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"Louis Armstrong, Charlie Parker." (Miles Davis summarizing the history of jazz)

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Charlie Parker: On Dial (Dial)

July 20th, 2007 · 4 Comments

On Dial
パーカーがジャズの歴史に与えたインパクトの大きさから言えば、「サヴォイ・セッションズ」と「ダイアル・セッションズ」が双璧といえます。サヴォイについては以前の記事で取り上げたので、今回はダイアルのCDを取り上げようと思います。

サヴォイとダイアルの違いを喩えてみると、サヴォイが「創世記」であるのに対してダイアルは「詩篇」といえるでしょうか。あるいはサヴォイが「散文」、ダイアルが「韻文」。などとあまり無駄な例え話をしても仕方がないですが、サヴォイは資金不足からあまり、というかほとんどスタンダードナンバーを吹き込ませなかった(使用料がかかる)。あの有名な"Koko"も、そうしたサヴォイのふところ事情から生まれたわけです。ボツになった吹き込みを聴くと、最初パーカーとディズは堂々とチェロキーのメロディーを吹いているのですが、あわてたプロデューサーが止めに入っている。一方のダイアルではスタンダードをどんどん吹き込み、パーカーのこうした曲に対する解釈がよくわかるわけです。

また、パーカーのダイアルというとすぐに返ってくる返事が「ラバーマン・セッション」です。パーカーが朦朧とした意識のまま吹き込んだ「ラバーマン」はヨレヨレな演奏なのに、それでも聴く人を感動させる天才の不思議な側面を映し出した演奏です。有名な事件なのでご存知の人も多いでしょうが、間違った説が流布されているのをよくみるのでここで改めて書いておきましょう。パーカーが意識朦朧となったのは麻薬を飲んだせいではなく、麻薬を飲めずに仕方なく酒をがぶ飲みしたせいです。この吹き込みはロスで行われたのですが、地元の麻薬の売人であった「エムリー・ムース・ザ・ムーチェ・バード」という男が逮捕され、ヘロインが手に入らなくなって禁断症状が出始めたパーカーは大量に酒を飲むようになり、「ラバーマンセッション」の直前にも1リットルほどのウィスキーを飲んでいたという証言もあります。ヨレヨレのまま演奏を終えたパーカーはホテルに戻り、全裸でうろつきまわり、部屋で小火を出してしまったため逮捕され、裁判の結果カマリロ州立病院に入れられるという顛末です。このカマリロ病院を退院して2度のセッションまでが「ウェストコースト編」としてまとめられています。そしてその後ニューヨークに戻ったパーカーを追って、ロス・ラッセルがニューヨークで録音したダイアルセッションが「イーストコースト編」です。

曲数が多いので代表的なものだけ取り上げますが、「ウェストコースト編」ではまず、上に出てきた麻薬の売人の名前をつけた"Moose the Mooche"という曲があります。これはB♭循環で典型的なビバップの演奏です。"Yardbird Suite"(ヤードバード組曲)はパーカーの書いた曲の中でも、特に哀愁のある名曲として有名です。"Ornithology" は「鳥類学」という意味で、パーカーのあだなバードにひっかけられた曲名で、"How High the Moon"のコード進行を下敷きにしています。"Night in Tunisia"では有名なブレーク(リズムの進行を止めてホーンが自由に吹く部分)、その名も"Famous Alto Break"が聴けます。そして件の"Lover Man"。この後は入院してしまい、退院してからは歌入りのセッションがありますが、特にいいのは"Cool Blues"と"Relaxin' at Camarillo"。どちらも12小節のブルースですが、カマリロのほうはちょっと変形したB♭のブルースで、面白い曲想です。

「イーストコースト編」にはB♭循環の"Dexterity"や"Honeysuckle Rose"のコードを使った"Scrapple from the Apple"のように後々まで長く演奏され続けるバップの名曲が目白押しですが、なんと言ってもスタンダード集、特に"All the Things You Are"のコード(これが複雑なんです)を借りた"Bird of Paradise"を特筆すべきでしょう。ジャズでアドリブソロを取る本当の意味は、曲の髄というかオリジナル曲よりもさらに美しいメロディーを取り出すことにあると思うのですが、これなどまさにその典型、原曲をはるかに超えた美しい演奏になっています。また、ヒップホップというのかクラブ系の音楽でこの演奏をコラージュした曲を耳にしたことがあります。スタンダードは"Embraceable You"、"My Old Frame"、"Out of Nowhere"、"How Deep Is the Ocean"が取り上げられており、またオリジナルの装いをした"Quasimado"も"Enbraceable You"のコードを使っています。

渋いけれど、噛めば噛むほど味の出る「サヴォイ」に対して、「ダイアル」は曲もバラエティー豊富で最初からとっつきやすく、聴き込めばそれだけ奥の深さが見えてくるレーベルだと思います。Vol. 1がウェストコースト編、Vol. 2がイーストコースト編です。

Tags: alto sax · Parker, Charlie

4 responses so far ↓

  • 1 yas // Jul 21, 2007 at 9:08 pm

    チャーリー・パーカーは確か30代で亡くなっていると聞きました。
    短い生涯で、何枚アルバムをリリースしているのでしょうか?
    (スミマセン、チャーリー・パーカーはまだ聴いたことはないのです。)
    デクスター・ゴードン、ビル・エヴァンス(確かジム・ホールとのデュオ)は、
    聴いたことがあります。チャーリー・パーカーでお勧めはありますか?
    イーストウッドの「バード」は観た事があります。
    昔からドラックはあったんですね。でも、アルコール1リットルは凄い!

  • 2 G坂 // Jul 21, 2007 at 11:09 pm

    パーカーの頃はまだSPレコードだったので、現在では編集された形で出ています。
    編集の仕方にもよりますし、プライベート録音もあるので数は様々ですが、
    大体50枚ぐらい、プライベート録音を入れて80枚程度です。
    日本語で書かれた世界に誇れるパーカーサイトがあります。
    Chasin' The Birdです。ぜひ覗いてみてください。

    パーカーのおすすめは、ここで紹介した「ダイアルセッションズ」と、以前に紹介した「サヴォイセッションズ」、
    また「ウィズストリングス」がいいですよぉ。

    レスター・ヤングやビリー・ホリデイもそうなのですが、麻薬患者の直接の死因て麻薬そのものよりも、
    麻薬が手に入らなくなったために代用品としてアルコールを過剰摂取したことによる病気が多いみたいですね。

  • 3 Kumagorou // Jan 20, 2011 at 3:35 am

     昔、LPの On Dial は10枚組プラス、初回限定の非売品シングルが付いていました。その非売品シングルが、カマリロ州立病院収容直前のLover Manで、LPに入っていた方のLover Manは、そうではない、と聞きました。確かにぼんやりとした感じの、音も良くない演奏だったので、その後のCDでも、こちら側のLover Manは入っていない、と思っていましたが、入っているOn Dialを探し続けています。
     この4枚組に入っているLover Manは、その病院に収容される直前の演奏なのでしょうか。
     ぜひ教えてください。

  • 4 G坂 // Jan 21, 2011 at 11:00 am

    Kumagorouさん、コメントありがとうございます。
    Lover Manですが、この4枚組みに入っているのは46年7月29日のLover Manです。ディスコグラフィーも調べてみましたが、この直前か直後に別のLover Manを吹き込んだという情報は載っていませんでした。

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