1956 Series (2)
すべてのジャズアルバムの中でもっとも有名な一枚で、ほとんどのジャズ入門書や解説書でも、必携中の必携としてこの一枚を取り上げています。さらに、レコード店などでもジャズキャンペーンをやるときこの一枚を筆頭に掲げることが多い。ある人は漱石の『坊つちゃん』になぞらえ、「ジャズマニアだと却って手を出しにくいほどに基本中の基本である」と妙な逆説を用いて持ち上げてみたり、果てはこの名盤を貶すことで自分のオリジナリティーを出そうとする天の邪鬼評論家まで湧いてくる始末。それだけでは飽きたらず、録音技師のルディー・ヴァン・ゲルダーの技法についてとやかく言われたり、アルバムジャケットの異同(私の場合もLPではシルエットが真っ黒なのですが、CDのシルエットは微妙に顔が見えています)について騒がれたりと、もうやられ放題。少し気の毒になるほどの弄られ様です(笑)。もはやこのアルバムについて語ることなどないような気もします。
このレコードを買ったのはだいぶ前でしたが、その頃あまり受け付けない曲がありました。"St. Thomas"です。最近でこそ克服できたようですが、もともとラテンリズムを聴くとなぜか緊張してしまい、この名曲もご存じのようにカリプソですからテーマ~カリプソによるアドリブ~ドラムソロあたりまでは聴いていて肩が凝っていました・・・今ではラテンも平気なので何でそうだったのかちょっと分かりませんが。その分、ドラムソロが終わってから4ビートになってロリンズのソロ?トミフラ(ピアノ)のソロあたりは、ある種の解放感を味わいながら聴いていた思い出があります。今思うと変な聴き方でした。
このアルバムは問題作、時代を示唆する作品という意味での傑作じゃないんですよね。むしろロリンズがどれほどすばらしい歌い手であるかということを示しているんです。ロリンズは「セント・トーマス」の出だしの部分なんか聴いても分かるように、本当にアドリブしている。つまり、一からメロディーを創り出していくタイプのジャズマンなわけです。こういうタイプはそんなに多くなくて、マイルスだってどう聴いてもあらかじめラインの流れとか練ってから演奏しているし、それ以外の人たちは多くのストックフレーズを順次組み合わせながらアドリブしていくっていうタイプが大半です(ブラバン・ジャズじゃないから、書き譜ってのは少ないでしょうが)。そんな中でロリンズは一からアドリブしていく人だったわけです。こういうタイプは成功すればいいけれど、失敗するとフレーズが停滞して、アドリブだかリフだか分からないようなことになる場合もあります。だから、ロリンズのアルバムって構成的だったりテーマを持っていたりという作為性が少ないのですが、その分曲によって出来不出来があり、一枚のアルバムがもたらす満足感っていうのがいまいちなのです。ところがこの『サキコロ』は曲がカリプソ(St. Thomas)、バラッド(You Don't Know What Love Is)、マイナー(Strode Road)、スタンダード(Moritat)、ブルース(Blue 7)と網羅されている上に、それぞれが全く破綻せずに完成しているんですね。こんなことは天才ジャズマンのアルバムとしても稀有なことです。その稀有なことが実現してしまった稀有なアルバム。それが『サキコロ』です。共演者はドラムがマックス・ローチ、ピアノがトミー・フラナガン、ベースがダグ・ワトキンスです。
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