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"Louis Armstrong, Charlie Parker." (Miles Davis summarizing the history of jazz)

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Miles Davis: Workin’ (Prestige)

May 26th, 2006 · 3 Comments

workin

1956 Series (5)

さて『ワーキン』を買う時に気をつけなければいけないのは『ウォーキン』と間違えないようにすることです。マイルスには「ing4部作」ではない Walkin'という作品があり、こちらはメンツが全然違っています。タイトル曲がFのブルースで、延々ジャムセッション風にソロを回していく演奏で、これはこれで驚くほどの名盤ですが、いずれにせよ第一次黄金クインテットではないので間違えないようにしましょう。歩くほうではなくて働くほうです。

一曲目。やはりこのアルバムを印象づけるスタンダード、"It Never Entered My Mind"です。ロジャー?ハートコンビによる名曲ですが、いまいち印象に残らないのは上手い日本語タイトルがないからかも知れません。"My Funny Valentine"は「バレンタイン」ですし、 "If I Were a Bell"は「ベル」といえば通じますが、この曲はどうしましょう。「マイ・マインド」では上にジョージアとつく方を連想してしまいそうですし、「イット・ネバー」では闇雲に否定しているようです。この歌は、(別れた?)恋人がいろいろ忠告してくれたけれど、その当時はそんなこと思いもしなかった、という内容をヒューモラスに歌ったものです。ジャズだから歌詞なんて放っておけばいいと思う人がいるかも知れませんが、たとえばデクスター・ゴードンは映画『ラウンド・ミッドナイト』の中で「ニューヨークの秋」を吹きながら、突如"I can't get right"と言って吹くのをやめてしまいます。友人のフランシスがどうしたのかと尋ねると「歌詞が分からないんだ」と答えます。マイルスも同じようにスタンダード、特にバラッドを吹くときは歌詞の意味に配慮したと言われています。本来の歌詞は割とヒューモラスですが、ここでのマイルスはレトロスペクティブなイメージでもの悲しげに吹きます。やはり冒頭に持ってくるだけのことはある名演だと思います。今回もコルトレーンはお休み(エンディングで少し聞こえますが)。正しい配慮です(笑)。

二曲目 "Four"はマイルスのオリジナルで何度か吹き込みされています。マイルス、コルトレーン、ガーランドとソロをとっていきますが、全員乗りに乗っています。三曲目は以前『タイムアウト』で取り上げたデイブ・ブルーベック作曲の "In Your Own Sweet Way"。ソロはマイルスが休んで(テーマは吹きます)コルトレーンにスポットが当てられています。これは5月のセッションですがこのコルトレーンは荒削りではあるもののなかなかやってくれます。

次はその名も "The Theme"「テーマ(英語ではシームと発音します)」です。これはマイルスオリジナルでセッションのクロージング・シーム(終わりのテーマ)として使われていた短いリフ曲ですがここでは少し拡大してポール・チェンバースとフィリーがソロをとっています。5曲目は"Trane's Blues"、「コルトレーンのブルース」ということですが、これはマイルス作曲の「ヴァイアード・ブルース」にそっくりです。マイルス、コルトレーン、ガーランド、チェンバースの順にソロをとり、ガーランドはお得意の「ボタンとリボン」の引用をここでも行っています。パーカーもよく「ハイ・ソサエティー」を引用していましたが、あるコード進行で無意識に出てしまう手癖なんでしょうね。

次の"Ahmad's Blues" は、当時マイルスが熱中していたピアニスト、アーマッド・ジャマル作曲のブルース。マイルスはレッド・ガーランドを迎える前、ずっとアーマッドにグループへの参加を呼びかけたものの、アーマッド本人がカクテルピアニストとして安定した仕事を持っていたため断られたと言われています。レッド・ガーランドに白羽の矢が立ったのもアーマッドとスタイルが似ていたせいですが、それにとどまらず曲のレパートリーにも影響を与え、ついには名演「枯葉」(Somethin' Else所収)でアレンジからなにから全てアーマッドのスタイルを導入するほどになります。ここではマイルス、コルトレーンともお休みでピアノトリオの演奏となります。「アフター・アワーズ」というタイトルの、セッションが終わった後のけだるい雰囲気をあらわした曲がありますが、このアーマッド・ブルースもまたそんな感じです。

7曲目の "Half Nelson" はマイルスの作曲。サボイ・レコードに初リーダーとしてパーカーと共に吹き込んだ演奏がありました。この時パーカーはテナーを吹いています。『ワーキン』でのマイルスはバップ風の上下するフレーズを多用したスタイルで吹き、コルトレーンは10月のセッションということでかなり成長したソロをとりますがちょっと演奏時間が短いですね。最後は4曲目でも演奏された "The Theme" でアルバム全体を締めくくっています。

このアルバムはテーマを挟んで第一部と第二部に分かれて、まるで本当のライブみたいな感覚で聴くことが出来ます。またコルトレーンをフィーチャーしてみたりピアノトリオにやらせて自分たちは休んだり、実際のセッションを彷彿とさせます。だから「ワーキン」(営業、バイショウ)ってことなんでしょうかね?(笑)

Tags: Coltrane, John · Davis, Miles · trumpet

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