『バグス・グルーヴ』と対になっているアルバムが、この Miles Davis & the Modern Jazz Giants です。カタカナ打ちするとあまりにも長くなるので英語で打ちました。こちらは件の「クリスマス・セッション(1954年12月24日)」に加えて、1曲だけ "'Round Midnight" が1956年10月26日のセッションです。メンバーはクリスマス・セッションは例によってマイルス、ミルト・ジャクソン(vib)、モンク(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds)、一方56年のセッションはマイルスのほかコルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の黄金クインテットによる「マラソン・セッション」の1曲です。
伝説となっている事件が起きたのは、このアルバムの1曲目 "The Man I Love" でのことです。その伝説とは「俺のバックでピアノを弾くな」というマイルスの発言に怒ったモンクが、この曲のソロの途中で弾くのを止めてしまったというもの。しかし、真相は単に音楽的な理由からバッキングを断り、モンクもそうしたというだけだとマイルスは語っています。さらに弾くのを止めてしまった事に関しては、モンクがリハーサルと勘違いしたという説が言われていますが、こちらはどうでしょう?この曲はすでにテイク2で、テイク1は出だしにごたついていたので、これをリハーサルと勘違いするというのは少々強引な解釈だと思います。ただ、モンクの場合『モンクス・ミュージック』でもコルトレーンの番でもないのに、「コルトレーン、コルトレーン!」と叫んで、つられたアート・ブレイキーがとちったりしていますから、勝手に思い込むようなところがあるのかもしれません。それにしても、ミルトのイントロから感動的なマイルスのテーマ吹奏、テンポアップしてミルトの畢生のソロ、テーマを倍に伸ばしたフレーズを弾いた後モンクが弾くのをやめて延々とリズムが刻み続けられる中、マイルスがペットで「弾き続けろ」と吹くやいなや、はじかれたようにモンクが複雑なソロを展開し、その最後のリフを受けてマイルスがソロに入り、オープンからミュートへとサウンドを変えて雰囲気を鮮やかに転回するあたりに、尋常でない緊張感を感じるため喧嘩説に説得力をもたらしているわけです。
2曲目の "Swing Spring" はリズム・チェンジの曲です。普通リズム・チェンジは急速調でアドリブの妙技を自慢する題材になることが多いのですが、ここではテンポを遅めにして、アドリブもメロディーの彩を楽しめる作品になっています。マイルスのソロ、ミルトのソロと続き、マイルスの後ソロでは珍しく "When Lights Are Low" のメロディーを引用したりしています。モンクのソロではBメロのところでビ・バップ初期に聴かれたようなバップバップしたメロディーが出てきて微笑ましい。再びミルトがソロを取りそのままマイルスとユニゾンでテーマを弾いて終わり。
3曲目の "'Round Midnight" は上にも書いたように56年10月26日、マラソン・セッションからのテイクです。例のヴァンプと合奏もあり、コロムビア盤に引けを取らない名演ですが、それもそのはずでコロムビア盤よりも後の録音なのですね。
4曲目 "Bemsha Swing" はモンク(とデンジル・ベスト)の曲で、唯一マイルスのバックでモンクがピアノを弾いているもの。ここでのバッキングは実に丁寧で、マイルスとのインタープレイのようにも聴こえるので、喧嘩状態というのはやはりガセでしょうね。ソロはミルト、そしてモンクと続きマイルスとミルトの4バース・チェンジを経てテーマに戻ります。
5曲目の "The Man I Love" (take 1)は、ミルトのイントロでごたついてやり直し、マイルスのテーマでも、モンクが急に強い音を出してマイルスが引いたようなところがあったりして、なんとなく変な雰囲気です。もっとも、ソロに入るとミルトもモンクもマイルスも素晴らしいソロを取っています。こちらのマイルスはオープンで吹き続ける分平板な印象で、やはりtake 2の緊張感には敵いません。
マイルスがぐったりと椅子に座り込むほど疲れるのは、「ザ・マン・アイ・ラブ」のようなバラードを卵の殻の上を歩くような細心さで演奏した時だといわれます。確かに、このアルバムの1曲目に聴かれるようなマイルスのプレイは、その緊張感と繊細さで耳を傾けずにはいられません。
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