ハンク・モブレーに関しては以前に『ディッピン』の記事で取り上げましたが、アドリブのラインがモゴモゴしているというか、フレーズがピシッと決まらないことがあるわけです。ところがあら不思議、この『ソウル・ステーション』でのワン・ホーンは実に味わい深い。モゴモゴな分、決して乱暴に吹き荒ぶことがないため、フレーズが穏やかにまとまっているわけです。
このアルバムは1960年2月7日のセッション。メンバーはハンク・モブレー(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds)。素晴らしいメンツです。ハンクはブレイキーとはもちろん、ウィントン・ケリーとも相性がいい。というのも、彼のフレージングがバリバリ、パキパキしたものでないため、ウィントンにせよブレイキーにせよ、目一杯バックで仕事をするタイプでないとサウンドが間延びするんですね。特にウィントンはワン・ホーンものだとソロに、コンピングに大活躍しますが、このアルバムにもそのことは当てはまります。
1曲目 "Remember" はスタンダード。このアルバムは1曲目とラスト曲に有名なスタンダードを配し、真ん中の5曲はオリジナルという構成になっています。それにしても、この「リメンバー」はどうでしょう。ビリー・ホリデイのヴァージョンが有名ですが、インストものではまずトップに挙げられる名演です。まずテンポがよく、それがモブレーのフレージングを後押ししています。そしてウィントンのソロがこれまたよくできています。この曲だけでこのアルバムにはまる人は多いはず。
2曲目 "This I Dig of You" はオリジナル曲。テーマのあとはウィントンが先発。これまた素晴らしい。モブレーは途中モコモコし始めますが、ウィントンのピアノが推進力となって演奏を前に進めていきます。ブレイキーのドラミングも素晴らしく、ここではドラム・ソロも取っています。
3曲目の "Dig Dis" もオリジナルですが、ブルースです。冒頭2コーラスのウィントンに続いてモブレー。なかなかファンキーなソロですが、音色が丸く、オーバーブローにもならない(できない?)ので上品なブルースに聴こえます。茫洋たるテナー。再びウィントンがソロを取ってエンディングへ向かいます。
4曲目は "Split Feelin's"。曲名が示しているように、ラテン・ビートの部分と4ビートの部分が交互に出てくる構成の曲です。ソロの先発はモブレー。全編4ビートですが手癖フレーズがたびたび出てきて、「あ、また出た!」と嬉しくなります。ソロの後半でコルトレーンみたいなことをしていますが、ピシッと決まらないところが彼らしい。ウィントンは、全く間然とするところのないソロでびしっと決めています。最後にテナーとドラムの4バースを経て、再びラテン・リズムのテーマが出てきます。
5曲目はタイトル曲の "Soul Station"。16小節のかなりファンキーなナンバー。自作でかつ得意なファンキー・チューンということで、モブレーはレイドバックしてくつろいだソロを展開します。3コーラスそれぞれに違う展開というか狙いを持ったソロで構成力も感じさせます。ウィントンは力強くレイドバックしたソロで、なんだかブルースものをマッタリと弾くときのオスカー・ピーターソンみたいな出だしです。もっとも球を転がすような単音フレーズになると彼の個性がはっきりと出ています。ベースのポール・チェンバースもきっちりワン・コーラスソロを取り、テーマに戻ります。ドナルド・バードの「エイメン」も16小節のファンキー・ナンバーだったと思いますが、それと並び称されるような16ファンキー曲です。
最後は再びスタンダードで "If I Should Lose You"。哀調ある曲想が魅力でパーカーもストリングスで吹いていました。面白いのは、モブレーのソロがまさに「哀愁」を強調したものであるのに対して、ウィントンのソロはここでも元気に跳ねて転がっているところです。
ハンク・モブレー入門としてはぜひ聴いておきたい一枚です。
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