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Hank Mobley: Dippin' (Blue Note)

August 20th, 2007 · No Comments

Dippin

8・16に最高気温を更新してしまい、日本では猛暑が続いています。ジャズは秋冬の音楽と決まったものではないのでしょうが、暑い時にどのジャズを聴くのかには結構頭を悩ませます。もっともジャズのレコード鑑賞にとって猛暑というのは宿敵ですね。まず冷房をかけなくてはいけない。ただエアコンというのは冷房病の人につらいだけでなく、音を劣化させるんです。電気的なことではなくて、噴出し口からでてくる風や機械全体の振動が低音とかぶって低音部が非常に聴き取りづらくなる。次にアンプ。パソコンやモニターも暑いですが、アンプは尋常じゃないほど暑くなります。この熱エネルギーを電気エネルギーに戻してもっとパワーのある音聴かせてよ!といいたくなるほど暑くなって冷房の効果を弱めます。まあ、触った瞬間「アチッ!」となるほど熱いとメンテの時期に来ているんですが、そうでなくても「モワッ!」と暑いわけです。

去年書いたスタン・ゲッツの West Coast Jazz の記事では、夏には「クールサウンド」が合うと主張していましたが、あれはどういうわけか5月の記事で暑いといっても限度があったわけです。今年のように暑いときはどうするのか?一つにはジャズなど聴かず、冷房を効かせて大人しくしているという選択肢がありますが、もう一つ、もうお祭りのように熱いジャズを聴いて汗をかくという方法があります。今回紹介するハンク・モブレーのDippin'もそんなときにうってつけの一枚です。

ハンク・モブレーという人は、褒める人は「平凡な中にも味わいのある」と微妙に褒め、貶す人は「いもテナー」とはっきり貶すという、評価が真っ二つというよりは低いほうに傾いて二分されているテナー奏者です。事実油井先生の名著『ジャズ・ベスト・レコード・コレクション』ではたった一枚 (Peckin' Time) しか取り上げられておらず、そのアンダー・レイティッド具合も分かります。この人はよく言えば控えめ、悪く言えば個性に乏しいテナー奏者で、「俺が!俺が!」の並み居るテナー強豪たちの中ではどうしても埋没してしまうんですね。Dippin' でもサイドマンのリー・モーガンのほうが目立っていて、実際輝かしいプレイをしているほどです。私自身は割りと好きな人で出来るだけこの人のレコードを集めようとしていた時期もありましたが、結局情熱は長続きせずに中途半端なままで終わっています。

このアルバムは1965年6月の吹き込みで、4ビートやファンキーを飛び越えて、8ビートの演奏(いわゆる「『サイドワインダー』路線」)で吹き込まれた1枚です。メンバーはリー・モーガン(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ハロルド・メイバーン(p)、ラリー・リドレー(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)です。1曲目 "The Dip" はモブレーのオリジナル。8ビートです。ソロの先発はモブレーですがモゴモゴしています。それに比べてテナーの後に出るリー・モーガンの凄いこと!冒頭の1音で人を惹き付けます。

2曲目にして永遠の名作ともいえる "Recado Bossa Nova"。この曲はブラジル人ジャルマ・フェレイラという人物の作曲。ゲッツのボサノバ路線とは違って、南国の哀愁ある熱帯夜の雰囲気を醸し出しています。この曲を夏に聴くと実によく合います。特にお祭りとか花火を見物しながら聴いていると、自分がいま日本の夏祭りにいるのかリオのカーニバルにいるのか分からなくなってくるほどです。我が家からはお祭りの山車や花火がよく見えるのですが、この曲を流しながら雰囲気を楽しんでいます。ポータブルプレーヤーを持っている人はこれを聴きながら夜店の雑踏を歩けば雰囲気出ること間違いなしです。もっとも、一人で夜店歩きをしてもちっとも面白くないですが・・・ここではモブレーのとつ弁スタイルも逆に効果が高く、テナー、ペットともに名ソロ、さらにピアノが情熱的なソロを展開しています。この曲は後にイーディー・ゴーメの『ザ・ギフト』として日本のCMに使われ、わが国でリバイバルしました。ちなみに小川隆夫さんによると、ニューヨークでモブレーに会ったので、この曲が日本でブームになっていることを伝えると、彼自身はこのセッションのことすら覚えていなかったそうです!

3曲目の "The Break Through" はモブレーオリジナルで4ビートのハード・バップ。65年ということを考えるといまさら感はあったと思いますが、現在並列的に聴けばよく出来た演奏です。続く "The Vamp" もモブレーの曲。ここでもモーガンが素晴らしい。5曲目 "I See Your Face before Me" はこのアルバム唯一の4ビート・スタンダードでバラード。モーガンの凡庸さがよい意味で発揮されて実に味わい深い1曲に仕上がっています。ここではリー・モーガンも出しゃばらず、控えめで短めなミュート・ソロを取って情感を盛り上げています。最後の6曲目 "Ballin'" は3拍子。3拍子だと4ビートの手癖が使えないせいで、なかなか緊張しますがリー・モーガンは即興のリフを上手く組み合わせたりして印象的なソロを取っています。モブレーも自作曲だし頑張ってソロをとっています。この人の場合、ハーモニック・アイデアに乏しいわけではなくて、きっぱりと言い切るためのアーティキュレーションがはっきりしないために、いまひとつの評価を受けているということがよく分かるトラックです。

実はこのアルバムを見直したのは、かつて行われていた「はり猫」のライブで、「リカード・ボサノヴァ」の情熱的な演奏を聴いたことがきっかけです。そのときも夏の宵で、町内会長みたいな人が着流しの浴衣で来店していて、中年以上の男性が必要以上に浴衣を着こなすとモーホっぽく見えるということを頭の片隅で考えながら聴いていました 😆

ちなみにこのアルバムに限らず、赤主体のジャケットは色褪せしやすいですから気をつけたほうがいいですよ。私のなんか褪せて、もう半ばピンクです。

Tags: Mobley, Hank · Morgan, Lee · tenor sax

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