夏が近づいてだんだん気温が上がってくると涼しげなジャズが聴きたくなりますね。クールとコールすればゲッツとレスポンスが返ってくるのがジャズの慣わしですが、初期の「リアル・クール」時代のゲッツはそんなにクールではない、というか涼しくはない。同じことはリー・コニッツにも当てはまるのですが、40年代から50年代初頭のクール・ジャズはバップと比べてクールで整っていたというだけで、ビバップの余韻や新しいものを創造しつつある情熱が反映されて微熱に浮かされたような印象のものが多いわけです。ゲッツで言えばプレスティッジの Stan Getz Quartets なんてとてもクールとは言えない情熱的で、そして幾分とっつきづらい演奏ですよ。
これが50年代に入って徐々にコンセプトが整い、いわゆる「手馴れた」演奏になると涼しげで聴きやすいものが増える。今回紹介する West Coast Jazz もそうしたアルバムのひとつで、ストーン・マーチンのクールなジャケットと呼応するように涼しげな演奏が続きます。ゲッツのVerve時代は長く、第一作にして名作の Stan Getz Plays (これについてはいずれ書きます)から始まって、本作、J.J.ジョンソンとの競演、そしてボサノバ・ゲッツまですべてカヴァーされますが、それにしても本作はVerve時代の代表的な一枚と呼んで差し支えないと思います。私事ですが、Verveゲッツは紙ジャケの廉価CDが続々と発売されたので、一時まとめて購入しました。しかし、結局はあまり聴かなかったり飽きたりで売ってしまうことになるのですが、これは気に入ったので売りませんでした。もっともこれは紙ジャケ廉価国内盤ではなくて輸入盤なのですが、国内版のほうはオリジナル仕様を謳って全6曲。一方こちらの輸入版のほうは別テイクが2曲入るものの全13曲。まったく別物といっていいほどです。したがって、買うなら輸入版のほうを薦めます。
メンバーはトランペットがコンテ・キャンドリ、リズム隊がルー・レビ(p)、ルロイ・ビネガー(b)、シェリー・マン(d)という完全な西海岸体制。ジャズには冷戦時代のように東西両陣営があって、特に西海岸のジャズが殷賑を極めた50年代初頭のジャズを「ウェスト・コースト・ジャズ」と呼んだりします。しかし、タイトルが「ウェスト・コースト・ジャズ」だからといって、これが典型的な「ウェスト・コースト」スタイルかというと疑問です。というのもウェスト・コースト・スタイルの基本は整ったアレンジにあるからです。私がウェスト・コーストの代表選手だと考えるのはショーティー・ロジャース、ジェリー・マリガン、そしてデイブ・ブルーベックですが、ジェリーを除けば当人のソロの妙技よりもそのアレンジで力を発揮するタイプですね。特にショーティー・ロジャースがRCAに吹き込んだShorty Rogers and His Giantsこそ、ウェスト・コースト中のウェスト・コースト、その典型的な演奏です。整然としたアレンジの上を各人のソロが流れていく感じ。非常に洗練されていますが、その分ジャズ特有の活力というかバイタリティーが薄いわけです。これに比べると、ゲッツのWest Coast Jazzはコンボ演奏ということもあり、強烈なアレンジは施されずアドリブの魅力を堪能できます。
0 responses so far ↓
There are no comments yet...Kick things off by filling out the form below.
Leave a Comment