RCAの歴史的音源を油井先生の監修・選曲で、今も続くレコード屋「新星堂」が出した2枚組みLPです。エリントンの記事で書いたようにRCA系の膨大な音源の中から「ジャズ栄光の巨人たち」という全20枚の厳選集が出ていました。下がカタログ、クリックしてください。
しかし、更にその中から21曲を選び出してモダン以前のジャズの歴史を俯瞰できるように作られたのがこの2枚組みアルバムです。今回は資料的な意味合いが強いので、私の主観はほどほどにして曲を紹介したいと思います。この2枚組みは4面にそれぞれ1)サウンド・オブ・ニューオリンズ、2)サウンド・オブ・シカゴ、3)サウンド・オブ・スイング、4)サウンド・オブ・オールスターズとテーマを設定し、ニューオリンズジャズ、シカゴジャズ、スイングジャズ、ジャムセッションの特質を描き出すように編纂されています。
1-A(サウンド・オブ・ニューオリンズ)
- When the Saints Go Marching In (バンク・ジョンソンのニューオリンズバンド 1945):40年代の「ニューオリンズ・リバイバル」期の演奏。ジョージ・ルイスの力強いクラリネットが印象に残ります。
- Original Dixieland One-Step (オリジナル・ディキシーランド・ファイブ 1936)
- Black Bottom Stomp (ジェリー・ロール・モートンのレッド・ホット・ペッパーズ 1926):ジャズ史上最大の「うそつき男」(なぜなら「ジャズは俺が作った」と言っているから)ジェリー・ロールの名演。
- Swing Out (ヘンリー・レッド・アレン楽団 1929):新しいトロンボーン奏法の開祖J.C.ヒギンバッサムが聞ける。
- Heah Me Talkin' (ジョニー・ドッズ楽団 1929):ニューオリンズスタイルの真性の姿。
- Maple Leaf Rag (シドニー・ベシェのニューオリンズ・フィートウォーマーズ 1932):ビブラートを効かせまくったベシェのソプラノサックスが力強い。
- Mahogany Hall Stomp (ルイ・アームストロングのディキシーランド・セブン 1946):サッチモ中期の名演。「マホガニーホール」とはニューオリンズに昔あった売春宿。
1-B(サウンド・オブ・シカゴ)
- Sedin' the Vipers (メズ・メズロウ楽団 1933):「サウンド・オブ・シカゴ」といっても全てニュー・ヨークでの吹き込み。
- The Panic Is On (メズ・メズロウのスイング・バンド 1936)
- That's the Serious Thing (エディー・コンドンのホット・ショッツ 1929):黒人街の火事には、わざと出動を遅らせた消防隊に対するプロテストソング。
- Hello Lola (マウンド・シティー・ブルー・ブロウアーズ 1929):レッド・マッケンジーというカズー(櫛に紙を巻いた楽器)を吹く男がリーダーのノベルティーバンドだが、ジャズマンたちもここで働いていた。なんとグレン・ミラーのジャズ・ソロが聴ける貴重な演奏。
- The Eel (バド・フリーマンのスマ・カム・ロード楽団 1939):もうモダンジャズ始まっちゃうよという時期の演奏だが、バド・フリーマンの文字通り「鰻」のようにつかみどころない特徴がよく現れた演奏。
- Back in Your Own Back Yard (ポール・ホワイトマン楽団 1928):ジャズでないのに「キング・オブ・ジャズ」に一時祭り上げられたポール・ホワイトマン楽団だが、ビックス・バイダーベックのホット・ソロが聞こえる。
- That Da Da Strain (マグシー・スパニアのラグタイムバンド 1939):どちらかというとニューオリンズスタイル。
2-A(サウンド・オブ・スイング)
- Black and Tan Fantasy (デューク・エリントン楽団 1945):再演物。
- Peckin' (ベニー・グッドマン楽団 1937):BG最盛期のスイングスタイルの演奏。ハリー・ジェイムス(tp)、ジーン・クルーパー(ds)が光る。
- Shoe Shine Boy (フレッチャー・ヘンダーソン楽団 1936):BGの元となる歴史上もっとも偉大なバンド。ロイ・エルドリッジ(tp)、チュー・ベリー(ts)が聴けます。
- Rocly Road (マッキニーズ・コットン・ピッカーズ 1930):フレッチャー・ヘンダーソン・スタイルというアレンジ・スタイルを生み出したドン・レッドマンによる「ミュージシャンズ・バンド(プロの音楽家が聴くようなバンド)」。
- Ain't Misbehavin' (フランス・ホット・クラブ五重奏団 1937):ステファン・グラッペリ(vn)、ジャンゴ・ラインハルト(g)ら欧州のジャズマンがパリで吹き込んだ室内楽的ジャズ。
- Body and Soul (コールマン・ホーキンス楽団 1939):同曲の決定的解釈として名高い演奏。
- Tweed Me (ジョン・カービー楽団 1941):スイング時代のMJQと呼ばれ、優れたアンサンブルとソロの配分も素晴らしいバンド。
2-B(サウンド・オブ・オール・スターズ)
- Shufflin' at the Hollywood (ライオネル・ハンプトン楽団 1939):臨時編成バンドながらハンプトンとチュー・ベリーの優れたソロが交錯する名演。
- Honeysuckle Rose (ジャム・セッション・アット・ビクター 1937)
- Blues (ジャム・セッション・アット・ビクター 1937):二曲とも同じ日の吹き込み。ビクターのスターが集まったジャムセッション。バニー・ベリガン(tp)、トミー・ドーシー(tb)、ファッツ・ウォーラー(p)らが参加。
- The One That Got Away (エスカイヤー・オール・アメリカンズ 1946):男性誌『エスカイヤー』が人気投票を行って集めたオールスターによるジャムセッション。エリントンとジョニー・ホッジス(as)が参加している。
- One O'Clock Jump (メトロノーム・オール・スターズ 1941):アメリカ最古のジャズ雑誌『メトロノーム』による人気投票オール・スターズ。ハリー・ジェイムズが、クーティー・ウィリアムスがコールマン・ホーキンスが、チャーリー・クリスチャンが、カウント・ベイシーがソロを取っています。本当のオールスター。
- The Blues My Baby Gave to Me (フランキー・ニュートン楽団 1939):パナシェ・セッションから。このワンホーン物を入れた意図について油井先生は「聴けば聴くほど味わいが出てくる。オールスターセッションの息抜きには格好のものではあるまいか」と述べています。
- Swing Is Here (ジーン・クルーパのスイング・バンド 1936):名義はジーン・クルーパであるが、実際はベニー・グッドマンの楽団にスターソロイストが客演したピックアップバンド。
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