名曲"Blue Monk"に対する思いの丈については、以前ブログに「理性が雲散霧消する曲」という記事を書きましたが、今日紹介するMonk's Musicもそれらに劣らない名作です。
モンクというピアニストは、綺麗めのジャズピアノを聴いて「ジャズピアノっていいなぁ、おしゃれだな」と思っているような人が最初につまずくピアニストです。事実、数年前に「キースを聴いてジャズピアノに入門しました。同じような感じのジャズピアノないですか?」と質問され、からかい半分でモンクを紹介(セシル・テーラーでなかったのはせめてもの情け)したところ、「すぐに買ったけれどなんか違う」と連絡がありました(笑)。事情を話すと怒っていましたが、「モンクを聴かなくちゃ、ジャズは分からない。ジャズの奥深さを知ってもらおうと、わざと紹介した」と詭弁を弄したところ、なんとか納得してもらいました。
もちろん、この場での発言は詭弁なのですが、「モンクを聴かずにジャズを語るなかれ」というのは、厳然たる真理です。なぜでしょう?一般に、ジャズというのはクラシック的な価値観では否定されそうな要素が、堂々とまかり通っている。その一つが「美しさ」の概念です。ジャズではサッチモのだみ声から、ピーウィー・ラッセルのグロール・クラリネット、エリントンの濁ったようなコード、コールマン・ホーキンスのテナーサウンドのように、それ以前の古典音楽では「汚い」とされていた音使いを用いることで、新たな美を創造しています。モンクのピアノもパーカッシブな奏法と、独自の和声感覚で一聴すると「なんかずれている」「濁っている」と感じられるのですが、慣れてくるとこの感覚がたまらなくなってくるわけです。一曲目の賛美歌"Abide with Me"は、とても賛美歌とは思えない、あるいは「中学校の下手なブラバンが演っているんじゃないか」と思わせるような、ずれた音色で演奏されています。そしてそのまま、二曲目"Well You Needn't"に滑り込んでいくところが絶妙だと思います。
この曲では、モンクが不意に叫んだり、ドラムのアート・ブレイキーがつられてとちったりするのですが、全く意に介せず演奏は進行し、そのまま本テイクとして発表されているのです。そしてここにも「ジャズとはなんぞや?」という問いに対する答えが見え隠れします。私がジャズに入門したての頃、一番驚いたのは「チャーリー・パーカーの別テイク」でした。一枚のLPを買って「16曲あるな」と思っても、よく見ると同じ曲の別テイクが何曲も収録されていて、正味8曲ぐらいしか入っていない、ということにビックリし、なんだか詐欺にあったような心持ちがしました。中には失敗した演奏まで入っているんですからね。しかしジャズを聞き込むにつれて、だんだん「こういうのもありかな?」と思えるようになってきました。一つの完全無欠な形を目指して、その途中を切り捨てるのではなく、音として出してしまったものはとりあえず受け入れようという姿勢です。そしてその失敗が全体をダメにするようなものならともかく、ちょっとしたミスならコミで考えようということです。実際、サッチモ不朽の名演"West End Blues"にしても、最後に「キャポッ」っていう正体不明のノイズが入っていますしね。それにしても、この"Well You Needn't"、そんなとちりもどこ吹く風とばかり、演奏全体がドライブして、グルーヴしています。つづく"Ruby, My Dear", "Off Minor"は順調に進みますが、5曲目"Epistrophe"で、またもやブレイキーがとちり、コールマン・ホーキンスが2回ほど飛び出しをやります。しかし、演奏全体の価値は少しも減りません。最後はモンクが「小シンフォニー」と位置づけ、アドリブを許さなかった名曲 "Crepuscule with Nellie" で閉められますが、この曲を「調子っぱずれだ」ではなく「キレイだ」と思えるようになればジャズファンといえるでしょう。
モンクの代表作というとBrilliant Cornersがあり、そちらはロリンズが参加し、演奏ももっと完成されまとまりがありますが、私はこのMonk's Musicのほうが好きです。
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