ビリー・ホリデイについて没後50周年を記念して前期から後期まで網羅して書くと豪語しながら、もう2年も超過してしまった。ビリー・ホリデイのヴァーヴにおける第4集は、トニー・スコット (cl), チャーリー・シェーヴァース (tp), バド・ジョンソン (ts)らのオーケストラをバックに従えたテイクを集めた物。前半7曲が'55年2月のセッション、後半8曲が'56年6月のセッション。
1. Say It Isn't So
2. I've Got My Love To Keep Me Warm
3. I Wished On The Moon
4. Always
5. Everything Happens To Me
6. Do Nothin' Till You Hear From Me
7. Ain't Misbehavin'
8. Trav'lin' Light
9. I Must Have That Man!
10. Some Other Spring
11. Lady Sings The Blues
12. Strange Fruit
13. God Bless The Child
14. Good Morning Heartache
15. No Good Man
16. Rehearsal For God Bless The Child
3曲目の "I Wished on the Moon" はブランスウィック・セッション以来の実に20年を経ての吹き込み。ヴァースから歌い始め、ゆったりとした4ビートに乗って昔を思い出すかのようにしっとりと歌う。中間に聞かれるピアノソロはビリー・テイラー。4曲目 "Always" のクラリネットソロは極めてモダンなテイストを持ったトニーの真骨頂である。5曲目、マット・デニス作の "Everything Happens to Me" はジャズの大スタンダードだが、ビリーにとっては初吹きこみ。「○○すれば必ず××する」式の非常にコミカルな歌詞を持った歌で、プロデューサーのノーマン・グランツが「ビリーにトライさせた歌」の一つかもしれない。楽器のソロを挟んでの後半、サビから入ってくるビリーの展開は往年の輝きを感じさせ、かなり言葉が詰まった歌詞であるにもかかわらず、当意即妙に崩している。5曲目の "Do Nothing till You Hear from Me" はいわゆるエリントン・ナンバーで、彼女にとっては10年ぶりの吹きこみ。あまりテンポを上げられなかったのか、シェーヴァースのソロになるといわゆる「倍テンポ」が設定されている。 ”Ain't Misbehavin'" (浮気はやめた)はファッツ・ウォーラーの曲でサッチモが大ヒットさせたスタンダード。意外なことにビリーはこれが初吹きこみ。しかしこれは吹込みの機会がなかっただけで、普段から歌っていた曲であろう。後半のアドリブは圧倒的である。
8曲目からは’56年のセッション。 "Travelin' Light" は手慣れた曲で、解釈が「結晶化した」歌。9曲目の "I Must Have That Man" は最初 "He's Funny That Way" かと思った。10曲目の "Some Other Spring" は実にしみじみとした解釈で、このアルバムでもベストに入るトラックである。11曲目でタイトルトラックともなった "Lady Sings the Blues" はこれが初吹きこみ。というより、自伝『奇妙な果実』(原題 Lady Sings the Blues) のタイアップ曲。私は昔からこの『自伝』と題されたセンセーショナル本が嫌いで、どうして嫌いなのかアニー・ロスやカーメン・マクレエの証言を聞いて腑に落ちた経験がある。彼女の音楽の魅力と釣り合っていないのである。訳も尊敬する油井先生ではあるが、なんか変な言い回しも多い。はっきり言って、この本を読んで感動したという人はジャズのレベルでも文学のレベルでも信用できない。そしてこの演奏であるが、タイアップ曲らしく非常に大げさでうるさく、まったくジャズとはかけ離れたトランペットのハイノートが曲の冒頭に配されていて腹立たしい(笑)。次の "Strange Fruit" もタイアップ色が強いもので、同じようにわざとらしいトランペットのイントロダクションが施されている。こういうこけおどしの演奏に騙されてはいけない。むしろこの日のセッションの本当の成果は13曲目の "God Bless the Child" である。おなじみのものではあるが、テンポ設定やバックの演奏がツボを得たもので、同曲としてはベストな出来を示している。14-15曲目も大傑作とは呼べないものの平均以上の出来を示している。そしてこの原因はソロこそ取らせてもらえなかったものの、バックで確実なサポートをしているウィントン・ケリーの参加による部分が大きのではないかと密かに思っている。
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