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Johnny Griffin: The Kerry Dancers (Riverside)

September 9th, 2007 · No Comments

The Kerry Dancers

朝青龍問題で揺れる大相撲ですが、新潟の災害のお見舞いに行って、重いものなんかを運ぶ手伝いをしているお相撲さんを見ると感動もありつつ微笑ましくなります。おばあちゃんが重いものを運んでいるのを見ると反対に痛々しくなる。何事もそうなんですが、10の力のある人が10のことをやるより、100の力がある人が10のことをやるほうが余裕が感じられて安心感があるわけです。

名前がゴリゴリしている上に、ハード・ブローイングが得意で、吹き比べセッションなどで乗ってくると「ブギャー!ボギャー!」と逸脱してしまうことの多いジョニー・グリフィンが、民謡を中心に据えてじっくりとワン・ホーンで吹き込んだこのアルバムにも同じようなことが当てはまります。普段ハード目にハード目に吹き荒んでいるグリフィンが、抑え目に抑え目に民謡などに取り組むと、高出力のアンプで小さく鳴らすような余裕とくつろぎが感じられる。実に味わい深い名盤に仕上がっています。メンバーはグリフィンのテナーのほか、バリー・ハリス(p)、ロン・カーター(b)、ベン・ライリー(ds)という構成で、吹き込みは61年の12月と62年の1月。

1曲目でタイトル・チューンの "The Kerry Dancers" はアイリッシュ・フォーク。パーカーが「ハイソサエティー」と並んでよく引用していたフレーズとしても有名です。ワン・ホーンということもあり、喧嘩腰でない、ゆったりとしたユーモラスなフレーズで楽しい1曲です。

2曲目 "Black Is the Color of My True Love's Hair" はニーナ・シモンの歌でも有名なアメリカ南部の民謡。スローなイントロから、イン・テンポでテーマに入りアドリブになります。トゥーファイブのところでパーカー風の16分を入れながら立派なジャズへと仕上げていきます。バリー・ハリスもいつもの通りツボを押さえた地味目のソロを取りますが、滋味が溢れています。

3曲目 "Green Grow the Rushes" はスコティッシュ・フォーク。イントロとテーマはスコティッシュ・フレーバー全開ですが、アドリブに入るといつものバップになります。ただ、コーラスのつなぎ目で元歌を示すようなストップタイムが入って面白い。ハリスも軽快なソロです。

さて、4曲目です。"The Londonderry Air"、別名「ダニー・ボーイ」。私はこの曲がかなり好きで、以前に石田衛君がホテル・ラウンジでやっていたライブを聴きに行った時にも、お願いしてこの曲をやってもらいました。コーラスの後半25小節目の一拍で、上の3度(歌で言うと "'Tis I'll be here" の "here" のところ)に上がる時思いっきり強く、情緒なく上がる演奏や歌が多いのですが、ここでのグリフィンもライブでの石田君も、あるいはビル・エバンスもここをソフトに演奏することでテクスチャーに深みを出しています。と同時に単なるムード・テナーやカクテル・ピアノに陥らないのもこうした理性というか抑制感があるからなのでしょう。テーマが終わるとバリー・ハリスのソロですが、これがまたよい。ハーモニックなアイデアを駆使して響きを広げつつ半コーラスソロを取ります。続いて残りをグリフィンがアドリブというよりフェイクでソロを吹きますが非常に感動的です。

5曲目からはB面で、こちらでは民謡を取り上げていませんがムードは繋がっています。特に名曲・名演といえるのが7曲目の "Hush-a-Bye" (「ハッシャ・バイ」)で、その後グリフィンが何度も取り上げている名曲です。マイナーで哀愁の漂うメロディーなので、日本人向きだと思いきや、グリフィンがコペンハーゲン時代にこの曲をやると、お客が踊りだしたそうです。確かに北欧民謡風のイメージを持った曲ですね。作曲はあのサミュエル・フェイン。

テナーのワン・ホーン物としては極上の部類に入る名盤です。

Tags: Griffin, Johnny · Harris, Barry · tenor sax

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