jazz.info

"Louis Armstrong, Charlie Parker." (Miles Davis summarizing the history of jazz)

jazz.info header image 2

V-Disk All Stars Vol. 4: Bebop into Cool (Tokuma Japan)

August 12th, 2007 · No Comments

Vdisk All Stars 4

Vディスクというレコードがあります。"V"とは "Victory" (勝利)の"V"で、第二次大戦中のアメリカの兵士慰問用レコードです。当然SPですが、当時としても割れやすいシェラックではなく、丈夫なビニライトを原料に使い、12インチだったそうです。戦後、これが進駐軍から払い下げになったり兵隊が小遣い稼ぎに売り出したりしたため、ジャズファンが集めたそうですが、私の生まれる遥か前のことなので私自身は全く知りません。戦争とジャズということでいえば、亡くなった「岡倉の父さん」、藤岡琢也さんは戦時中憲兵の目を逃れて敵性音楽であった好きなジャズを聴くために押入れにもぐって聴き、それでも音が漏れるので割り箸の先に木綿針をつけてレコードに載せ、反対側を耳に当てて聴いたといいます。割り箸が耳に痛いので、最後は小指の爪を細長く針のように尖らせてレコードにかけ、親指を耳の穴に差し込んで骨伝導で聴いていたそうです。油井先生は九十九里で高射砲の射手をしていて、千葉沖から進入してくる米軍機に高射砲を浴びせながら、「とにかくベニー・グッドマンが乗っているといけないから、当たらないように撃った」と講演会でおっしゃっていました。終戦とは日本のジャズとジャズマンにとっては一種の解放であり、それが気分として現代にまで続いていて、好戦的なジャズマンとかナショナリストのジャズマンというのが少ないのは、こういったわけなんです。

さて、そのVディスクですが、80年代に徳間によりテーマごとにLP化されて発売された時、ちょうどジャズに嵌り始めていた私も選びに選んでは少ない小遣いで購入しました。当時のLPの中に挟まっていたカタログが出てきたので、紹介します(クリックしてください、画像が拡大します)。

v-disk1vdisk2vdisk3vdisk4

vdisk5vdisk6vdisk7vdisk8

全部を購入したわけではないのですが、ポイントを抑えつつ求めました。今回紹介するのは、Vディスクの中では珍しくモダン・ジャズものです。確かに終戦が1945年、Vディスクは48年まで製造されていたそうで、バップがあっても当然なのですが、「前線のスクエアーでコーニーな兵隊が聴くのかな?」という疑問が残ります。またこの盤に収められている演奏は1949年のものもあったりして、いったいいつまで製造されていたのだろうということも疑問ですが、こういう疑問は専門家に任せておこうと思います。

A面は全曲パーカーのクインテットの演奏で、1949年クリスマスイブのカーネギーホールの演奏です。ジャケット裏には12/23となっていますが、最新の資料だと24とされているのでたぶんこちらでいいと思います。メンバーはパーカー(as)、レッド・ロドニー(tp)、アル・ヘイグ(p)、トミーー・ポッター(b)、ロイ・へインズ(ds)というレギュラーコンボです。古いライブ盤らしく楽器ごとのバランスが悪くて、ピアノのソロなど隣の部屋で弾いているのを聴いているような塩梅ですが、ベースがはっきり聴こえるし、とにかくパーカーがくっきり聴こえるので問題ない演奏です。

B面1-2がレニー・トリスターノ・セクステットの演奏。リー・コニッツ、ウォーン・マーシュ(ts)がいます。ピアノはレニー・トリスターノ師匠。ほかビリー・バウアー(g)、アル・シュルマン(b)、ジェフ・マーチン(ds)です。Very Coolの記事でもちょっと触れましたが、トリスターノ楽派の典型的な演奏がここには収まっています。3-4はトリスターノ・トリオによる1946年の吹き込みで、テーマを対位法的に処理していたりして初期の実験段階として面白い試みですが、こういうのがジャズの主流にならなくてよかったとも思ったりします 😛

5曲目 "God Child" はクロード・ソーンヒル楽団の演奏で、リー・コニッツのアルトが聴けますが、その前に出てくるテナーもレスターの流れを汲むクールなサウンドで実に面白い。モダン・ビッグ・バンド初期の演奏です。

最後2曲は、そのクール派の開祖、本人はバップとは違う行き方をとりながらバップを飛び越えてバップ以降、それこそマイルスにまで影響を与えた巨人レスター・ヤングの演奏で、1946年のラジオ・ライブの吹き込みです。この音源は、まったく別のレコードで持っていましたが、それこそ何回聴き直したことでしょう。6曲目 "These Foolish Things" はレスター・バラードの頂点。肩の力は抜け、最小限の音数で最大限の効果を挙げるやり方は、元親分のベイシーと似ていますがレスターオリジナルの行き方です。最後の曲 "Lester Leaps In" レスターオリジナルの循環です。ここでの聴き物はレスター以外にも、ポピュラー・シンガーではなくジャズ・ピアニストとしてのナット・キング・コールがいます。

こう見てくると、油井先生の選曲でしょうが、実によく出来ていて、ビバップからクールへのスタイル変遷、そしてその大元となったレスターの名演と上手く編集されていることに、改めて驚きます。Vディスクの再発はその後CDでもなされたようなので、下にCD版をリンクしておきます。Vディスクは終了の方向みたいなのでお早めに。

Tags: alto sax · Konitz, Lee · Parker, Charlie · tenor sax · Thornhill. Claude · Tristano, Lennie · Young, Lester

0 responses so far ↓

  • There are no comments yet...Kick things off by filling out the form below.

Leave a Comment