レスター・ヤングの直系といってもいいズートは、同じレスター派のスタン・ゲッツと比べるとサウンドはよりウォームで、フレーズも切れ味鋭いゲッツとは対照的に優しくて人柄の良さが出ています。実際に人柄はよく(辛らつな風刺も得意だったようですが)ミュージシャン仲間からも好かれるジャズマンでした。ベニー・グッドマンやアーティー・ショウ、ウディー・ハーマンやスタン・ケントンといった名門ビッグバンドを渡り歩いたという経歴だけでもその実力は分かります。ウディー・ハーマン時代は、フォーブラザーズという「アンサンブル化されたレスター・ヤング」の一翼を担っていたことでも有名です。
ズートの代表作というと本アルバムの他、50年代から60年代では『モダン・アート・オブ・スイング』、『ダウン・ホーム』、『アーゴのズート』、『イン・パリ』があり、またアル・コーンとのテナー・デュオ物がコンスタントに続きました。70年代に入ってからは一連のパブロ物があります。パブロには亡くなる85年まで在籍していましたが、あのレーベルは醜ジャケットで有名で、おまけにズート本人がお世辞にも美男子とは呼べないので、彼の顔をどアップにしたジャケットのLPなど「本当に売る気があるのか?」と思ってしまうほど、商品としての色気に欠けていました。
このアルバムのタイトルは『ズート・シムズ・イン・パリ』で、同タイトルのアルバムがもう一つあるので、区別するためにレーベル名から『デュクレテ・トムソンのズート』などと呼んでいます。『イン・パリ』がワン・ホーン物であるのに対して『デュクレテ・トムソン』のほうはトランペットとの二管編成で録音時間もたっぷりあることから、かなり思い切った吹きっぷりになっています。メンバーはズート(ts)、ジョン・アードレイ(tp)、アンリ・ルノー(p)、ブノワ・ケルサン(b)、シャルル・ソードレ(ds)となっています。録音は1956年3月。ジェリー・マリガンのグループで渡仏した際に吹き込まれたもので、いわゆるショクナイ(内職)です。
1曲目 "Captain Jetter" はアンリの曲。アニソンみたいなタイトルですが、しっかりとしたハードバップの曲で "Softly" のコードか。ズートもいつになく吹き上げています。2曲目のブルース "Nuzzolese Blues" はズートのブルースに対する理解の深さがよく現れています。アードレイはスカスカの音なのになんだか憎めない個性を醸し出しているところが面白い。後テーマはテナーとペットのユニゾンで、パーカーがよく吹いていたブルースのクリシェ(決まり文句)を出したりしています。3曲目のスタンダード "Everything I Love" の出だしは、なんだかパーカーのヴァーヴでの「ナウズ・ザ・タイムセッション」のようなピアノのイントロ。この頃ブームだったんでしょうかね?
4曲目、クインシー・ジョーンズのバラード "Evening in Paris" はズートがワンホーンで吹いていますが、サブトーンを駆使したズートならではのバラード奏法が印象的です。5曲目 "On the Alamo" もよい。 "My Old Flame" (6曲目)はバラード扱いなのですが、Aメロの2小節目がいきなりフラットセブンスに落ちるのでブルースのような雰囲気の曲。ズートもブルース風に吹いています。最後の "Little Jon Special" はアードレイの曲ですが曲の雰囲気といい、アレンジの決め方といい、典型的な「ウェスト・コースト・ジャズ」の技法です。
このアルバムのもう一つの特色は、1956年のモノラル録音なのに驚くほど音がよいことです。ヨーロッパ録音というのが関係しているのかもしれませんが、オーディオ・マニアではないので、よくは分かりません。この一日前に吹き込まれたベーシスト違いのセッション4曲が追加されたCDが昔出ていましたが、今回リンクを貼ったのはオリジナルフォームのCDです。
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