ハードバップはリスナーサイドの用語らしく、ミュージシャン崩れみたいな人が「ミュージシャンはハードバップなんていわないよ」とのたまっていることがありますが、実際には「ハードバップ」としか言いようのないジャズのスタイルがあるのは事実です。以前、ケニー・ドーハムの記事でB級ハードバップについて書きましたが、B級といわれるハード・バップのアルバムの特色は1)くすみ色の強いサックスが入っている、2)曲はマイナー調がメイン、3)バップのしきたりに則ってモードとか無調とかに走らない、そして最も重要なのはマイルス、ロリンズ、コルトレーン、モンクみたいな大物がいない、という点ではないでしょうか。
ティナ・ブルックスもくすんだ音色のテナー奏者で、何か斬新なことをやって次代を切り拓いて行くタイプのサックスではなく、演奏やフレーズの癖とか音色の特色で楽しむ感じのミュージシャンです。この作品は彼の唯一のリーダー作としてBNに残したものとして有名なアルバムです。吹き込みは'60年。これが唯一のリーダー作というせいで、私はこの人が夭折のミュージシャンだと思い込んでいました。しかし実際に亡くなったのは'74年なんですね。それでも42歳という若さでした。
これは6曲目のスタンダードを除いて、全編ティナのオリジナル曲です。1曲目"Good Old Soul"が、もうすでにB級ハードバップの香り全開です。待ったりとしたテンポでマイナー調の曲。最初に飛び出すのがティナのテナー。くすんだ音色で哀愁のあるソロを繰り広げます。たぶんハードバップ好きはこの曲想とティナのソロで参ってしまうはずです。続いてフレディー・ハバード(tp)のソロ。これがまた絶品です。この人は後年、上手くなりすぎて時に無意味なフレーズに走ったり、あまり「心」が感じられなくなる傾向が出てきて、マイルスの自伝でも「練習のし過ぎで悪くなった例だ」などと批判されていますが、ここでは実に丁寧で味わいのあるソロをします。ピアノはデューク・ジョーダン、ベースはサム・ジョーンズ、ドラムアート・テイラーです。
2曲目の"Up Tight's Creek"は軽快なテンポの曲で先発ソロはフレディー、続いてティナに引き継がれますが、二人とも乗っています。続いてジョーダンのピアノソロ。この人なんかも、テクニック的にはいま一つといわれているけれど、味わいとそしてなんと言っても書く曲が綺麗なんですよね。3曲目の"Theme for Doris"(ドリスのテーマ)はマイナー調にアフロキューバンリズムを組み合わせて、まさにハードバップの典型。色々な料理の可能性も感じられる名曲だと思います。ソロの部分は4ビートに戻り、ティナのワンホーン。そのせいかのびのびと実に表現豊かで楽想にあふれたソロを取っていて、このアルバムのハイライトを形成しています。
4曲目はタイトル曲"True Blue"。ファンキーな曲調で「「ディードゥドゥディドゥディドゥ」というリズムをベースにティナとフレディーが、これまでの曲よりもずっと自由にソロを取っています。ソロは短いんですがなんとなく次の時代を予感させるような演奏なのが興味深い。5曲目の"Miss Hazel"というのは、サンジェルマンで大騒ぎしていたヘイゼル・スコットのことでしょうか?かなり速いテンポで、おそらく「ハウハイザムーン」のコード進行を使った曲です。そういう意味でパーカーの吹き込んだ「オーニソロジー」に迫ろうとする勢いのある演奏で、味というよりもビ・バップ全開のソロの妙技を楽しむ演奏になっています。最後はスタンダードの"Nothing Ever Changes My Love for You"。ラテンリズムを交えて楽しそうに演奏しています。
今回、記事に書こうと聴きなおすことで色々発見もありましたが、実に奥の深い素晴らしいアルバムです。こういうアルバムは初心者の人ではなくて、パーカー、バド、モンク、マイルス、コルトレーン、ロリンズ等々、大物を聴き込んだ人にぜひ聴いてもらいたい作品です。もっとも、そういう人はもうすでに聴いていたりするんですが。 🙂
2 responses so far ↓
1 yas // Jul 20, 2007 at 9:29 am
おはようございます
ワタクシのブログに来て頂きありがとうございます。
G坂さんのJAZZの知識は凄いですね!
読み込んでしまいました。
また、遊びにきます。
2 G坂 // Jul 20, 2007 at 10:03 am
yasさん、コメントありがとうございます。
脈絡のないことばかり書いていてお恥ずかしい限りです。
こちらこそよろしくお願いします。
Leave a Comment