ジャズピアニストは数多くいるけれど、私が一番好きなピアニストはウィントン・ケリーです。バド・パウエルには畏れ多いところがあるし、モンクは一ピアニストとして好きというよりも作曲家、リーダーとして尊敬できるのに対して、ウィントンは一ピアニストとして最も好きなのです。
昔から漠然とイメージしていたジャズ・ピアノのイメージとウィントンのピアノがドンピシャリで一致したからだと思います。ケニー・ドリューではおとなしすぎる、トミフラでは綺麗過ぎる、ビル・エバンスでは繊細すぎる、オスピーでは馬鹿テク過ぎる、キースは唸り声がうるさすぎる(とあえて粗探しをしているのですが)のに対して、ウィントンのピアノは「ジャズピアノはかくあるべし」というイデアとしてのジャズピアノ、ジャズピアノという唯名論的概念はウィントン・ケリーという実体的な存在から導き出されたのではないかと思えるぐらいのイデアぶりです(ホンマかいな)。そういえば昔、清水ミチコが「ドのジャズ」という音階の「ド」だけでジャズを弾いていたのですが、これが彼のピアノスタイルそっくりでした。いわゆるジャズ以外の人がジャズを見よう見まねでやると必ず音が跳ねるんですね。で、意外なことに跳ねるとスイングしないんです。ところがウィントンの場合、跳ねているんだけれどスイングしている。キング・オブ・スイングはベニー・グッドマンではなくてウィントン・ケリーにこそふさわしい称号なのです。
ウィントン・ケリーはマイルスの賛辞「奴はマッチみたいなものだ。奴がいないとタバコが吸えない(マッチがないとタバコに火がつけられないように、ウィントンがいないと演奏に火がつかない)」からも伺えるように、サイドマンとして引っ張りだこでした。その証拠にアマゾンで「ウィントン・ケリー」と入れて検索してみてください。一番目が Giant Steps、二番目が Smokin' at the Half Note"、三番目が Soul Stationです(4.12現在)。コルトレーン、ウェス・モンゴメリー、ハンク・モブレーのリーダー作です。この他にも、マイルスの Kind of Blue や Someday My Prince Will Come 、ブルー・ミッチェルの Blues Moods や リー・モーガンの Vol. 2など数多くの名盤に参加していて、さながら「第二の名盤請負人」という感じです(第一の名盤請負人はトミフラです)。
一方リーダー作というと真っ先に挙げられるのが Kelly Blue ですが、これはちょっと時代がついている。特にタイトル曲なんかは"Moanin'"や"Cool Struttin'"と同じで「あの頃のジャズ」という感じがする。ピアノ・トリオの作品というとブルーノートにも確か一枚あった(10インチだったと)思いますが、代表的なのは今日取り上げる Kelly at Midnight とWynton Kelly(ウィントン・ケリーの『ウィントン・ケリー』じゃ分かりづらいので、一般に邦題は『枯葉』となっています)のVee Jay二枚が有名です。『枯葉』が曲の魅力で聞かせるのに対して、『ケリー・アット・ミッドナイト』は演奏の魅力、そして多分にドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズの魅力で聞かせるアルバムです。特に、後半二曲はウィントン、フィリー、そしてベースのポールチェンバース三人による至福のピアノ・トリオ演奏が収められています。
2 responses so far ↓
1 panag // Sep 14, 2011 at 11:36 am
初めまして。panagと申します。
大変興味深く拝読させていただきました。
マニアではありませんが、聴くのは大好きです。特に、ピアノが好きですで、最も好きなプレイヤーがWynton Kellyです。
冒頭の文面から同じ思いの方がおられたことに感動しました。
今後も大いに参考にさせていただき、収集に役立ていきたいと考えております。
ありがとうございました。
2 G坂 // Sep 15, 2011 at 10:20 pm
コメントありがとうございます。こちらこそお役に立てて光栄です、今後ともよろしくお願いします。
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