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Charles Mingus: Pithecanthropus Erectus (Atlantic)

May 26th, 2006 · No Comments

1956 Series (1)

1956年は「モダンジャズの当たり年」といわれていますが、これは何よりもまず、次の4作品が誕生した年だからだと思います。それは、ミンガスのPithecanthorpus Electus (『直立猿人』)、ロリンズのSaxophone Colossus、 マイルスの『プレスティッジ・マラソンセッション』、モンクのBrilliant Corners です。この4作品を頂点として、この年ジャズ界では前代未聞といっていいほどの傑作か次から次へと量産されていきます。来年は2006年。ちょうど50年目になりますから、一度ここで56年の傑作についてまとめてみようと思います。

pithecanthropus
第一回目はチャールズ・ミンガスの『直立猿人』、1-30の録音です。ミンガスという人は「怒りのミンガス」などとあだ名を付けられているように、いつも何かについて怒っているという印象があります。メインの対象は人種差別ですが、そのほか環境問題やジャズ・ビジネス、他のプレイヤーの姿勢などとにかく何かにつけて怒っている感じがするんですね。だから聴いていると暑苦しいし鬱陶しい、どっか余所でやってよといいたくなるような演奏も多い。その「怒りのミンガス」第1作目が『直立猿人』だと言われていますが、ここではまだ怒りそのものをぶつけているのではなく、ともかくも音楽に昇華しているので聞いていて鬱陶しいという程ではありません。いや、具象的なものと抽象的なものとの配分、組織的なものと非組織的なものとの融合、個人のソロとグループ表現とのバランスという点で、きわめてすぐれた作品だと思います。エリントン的なんですね。モダンジャズ化されたエリントンとでも言いましょうか。

タイトル曲の "Pithecanthropus Erectus"。一応4楽章の構成になっているようで「進化」?「優越感」?「衰退」?「滅亡」という表題がつけられていますが、あまり気にしないことです。この演奏の醍醐味はミンガスの推進力を持ったベースの元に叙情的なソロと混沌とした集団即興演奏が交差し、一つの雰囲気を作り上げているところであって、ミンガスの歴史観ではないのですから。とくに後半にいたってマクリーンのアルトとモンテローズのテナーが通常のフォームを逸脱して先鋭的なサウンドを発散させていくところは、後のフリージャズの先駆けとなるような、それでいてプリミティブなサウンドに先祖返りしているような独特の雰囲気を生み出しています。

2曲目 "A Foggy Day" はガーシュインのスタンダードですが、描写音楽で街の雑踏(ロンドンか?)を再現するイントロから始まります。テーマ、アドリブに入ってもバックで警笛の音や交通整理の笛の音などが合間に挟まれて独特の演奏となっています。しかし、この曲でもっとも魅力があるのは、ミンガスのベース(バックでもソロでも)で、非常に力強く演奏全体を推進させています。イメージとしてはジミー・ブラントンがいた頃のエリントン・オーケストラのようです。3曲目の "Profile of Jackie" はタイトルが示すとおり、ジャッキー・マクリーンのアルトを大きくフィーチャーしたバラードです。しかし、ここでも単なるバラード演奏に終わらずわずかですが集団即興演奏の要素が含まれています。

「直立猿人」ほど複雑な構造にせず、自由なソロのスペースを増やしたのが最後の曲 "Love Chant" です。最初聴いたときは、「ラブ・チャント」のほうが好きでした。「直立猿人」のほうは少しシバリがきつく、プレイヤーも伸び伸びしていないように感じたからです。しかし、ずっと聴いていくにつれてテーマとソロの有機的な結びつきという点ではやはり「直立猿人」の方が一段すぐれていると思えるようになってきました。

ビバップから一歩前進して、アルバム全体としての統一感やテーマとソロの結びつき、グループ表現などを重視する演奏が徐々に増えてくるのはこのころからだと思います。この方向でミンガスが進んでいけば良かったのですが、彼には噛みつかなければならない対象が多すぎました。このアルバムのあと、徐々に戦闘的になっていき、人種問題のプロパガンダのような理屈っぽいアルバムが増えていったのは残念なことです。しかし、そのサウンドはエリントン?モンクのようにオリジナルなものであり、彼の名曲 "Goodbye Pork Pie Hat" (Mingus Ah Um 収録)がマーカス・ミラーによって取り上げられ最近リバイバルしました。

Tags: bass · Mingus, Charles

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