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John Lewis: Grand Encounter (Pacific)

May 24th, 2006 · No Comments

grand encounter
西海岸のパシフィックというレーベルには美麗ジャケットが多い反面、内容はほんわかし過ぎて食い足りないものが多いという印象があります。ブルーノートはともかくプレスティッジや同じ西海岸のコンテンポラリーに比べてもガツンとくる作品の比率が低いことはたしかで、こうした印象が積分的には正しいのは事実です。

しかし微分的にはジャケット・内容ともに優れた作品があり、今日挙げたこの『グランド・エンカウンター』もその一枚です。一曲目の"Love Me or Leave Me"。ピアノがジョン・ルイス、ベースがパーシー・ヒースということもあり、MJQ的なイントロとテーマの直後に入ってくるビル・パーキンスの渋くて丸いテナーサックス。理想的なテナーではないですか?この一曲だけでもアルバム全体の価値があるでしょう。

つづく"I Can't Get Started"はピアノトリオですが、ジョン・ルイスらしい典雅な演奏の中に時折見せるMJQ的サウンドが特徴。さて次の"Easy Living"はビリー・ホリデイとレスター・ヤングの演奏が有名ですが、レスターを師匠・アイドルとするビル・パーキンスがサブトーンも豊かに名演を聴かせます。そのあとのブルース"2°East /3°west"でタネ明かしがされます。つまり、このメンツは東海岸の二人の人間(ジョン・ルイスとパーシー・ヒース)と西海岸の三人の人間(ビル・パーキンス、チコ・ハミルトン、ジム・ホール)の「大いなる邂逅(grand encounter)」であったと。この一曲がアルバム全体のハイライトではないですか?たんに私がブルース好きという話もありますが(笑)

ジャケットは中西部の美人娘が干し草か牧草の上で、ペーパーバックを脇に置いて微笑みかけている写真です。もちろん写真家はウィリアム・クラックストン。ジャケットといい演奏といい一枚のアルバム作品として完璧に近い出来です。ただ一点問題があるとすれば、このアルバムを聴いて「テナーのビル・パーキンス」に惚れてはいけないということです。この一枚に惚れて、それでなくとも見つけづらい彼のアルバムを見つけ、片っ端から買い込んだとしても、この一枚に匹敵するような満足感は得られません。ここでのビルはいつもと違うんです。いや、畢生(ひっせい)の名演をしちゃったんです。アート・ペッパーのように、ある日憑き物が落ちたように全然フレーズがでなくなるミュージシャンに対して、彼はある日突然憑き物がついて名演をしてしまったんですね。秋吉敏子が自分のバンドの「テナー」ではなく「バリトン」として彼を迎えたことが理解できます。

最初の100枚に入っていていい一枚です。

この記事で取り上げたCD

Tags: Lewis, John · piano

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