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"Louis Armstrong, Charlie Parker." (Miles Davis summarizing the history of jazz)

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ラバーマンという曲

April 21st, 2018 · No Comments

「ラバーマン」の器楽演奏というと、まず頭に思い浮かぶのはパーカーのラバーマンセッションである。同じダイアルセッションのタイトルにある「ムース・ザ・ムーチェ」という名のヤクの売人が逮捕されてしまい、麻薬が手に入らなくなったパーカーがウィスキーを1リットルも飲んでヘロヘロになったまま吹き込んだ伝説的な演奏である。

このセッション後、パーカーはホテルに戻ったが、意識朦朧としたまま全裸でホテルをうろつき、おまけに失火まで出してしまって逮捕。その後カマリロ州立病院に収容され麻薬中毒の治療を行う。
ポストカマリロで彼は再びラバーマンに挑戦する。

わが敬愛する油井正一先生は「忌まわしい記憶がよみがえったのか、生硬で闊達さに欠ける」とおっしゃっているが、私としては、おそらくパーカーはこの時いつもみたいな奔放なアドリブを目指したのではなく、きっちりテーマとフェイク(くずし)をやりたかったのではないかと睨んでいる。事実、パーカーのテーマ解釈こそこの曲のメートル原器になっている。

パーカーの影響のみならず、この曲の楽想から女性声域であるアルト(サックス)に名演が多い。とりわけリー・コニッツの演奏は彼のバラッド演奏の真骨頂ではなかろうか。実に素晴らしい。

そして、パーカーにスーパーサックス(パーカーのラインをサックスのソリで模写したバンド)があるように

リーの演奏はピアノのクレア・フィッシャーがオーケストライズしている。

ソニー・スティットは、パーカー在命中は彼に遠慮してアルトを吹かなかったと言われるが、パーカー没後、パーカーの後継者は俺だと云わんばかりにアルトを吹く、サックスの天才である。彼は何度も、それこそアート・ペッパーともデュオで「ラバーマン」を録音しているが、個人的に一番好きなのはこの「バーニン」バージョンである。

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Lover Manという歌

March 20th, 2018 · No Comments

Lover Man と云う曲は1941年 Jimmy Davis, Roger ("Ram") Ramirez, and James Sherman によって書かれた曲だが、この曲がヒットするのはニューヨークのクラブ「ダウンビート」でビリー・ホリデイが歌っているのを聴いたコモドア・レコードのミルト・ゲイブラーが「ヒット間違いなし」と感じてデッカ・レコードに吹き込ませたことによる。そして彼の直感の通り、ビリーのこの吹き込みは大ヒットを記録する。
I don't know why but I'm feeling so sad
I long to try something I never had
Never had no kissin'
Oh, what I've been missin'
Lover man, oh, where can you be?

The night is cold and I'm so alone
I'd give my soul just to call you my own
Got a moon above me
But no one to love me
Lover man, oh, where can you be?

I've heard it said
That the thrill of romance
Can be like a heavenly dream

I go to bed with a prayer
That you'll make love to me
Strange as it seems

Someday we'll meet
And you'll dry all my tears
Then whisper sweet
Little things in my ear
Hugging and a-kissing
Oh, what I've been missing
Lover man, oh, where can you be?

I don't know why but I'm feeling so sad(なぜか分からないけれど、悲しい気持ちになる)という出だしから、ある種のブルースを連想させるが、これは12小節のブルースではなく、サビを含む「歌モノ」である。しかし、ブルージーな雰囲気を醸し出す歌詞とメロディーである。

ビリーの歌をメートル原器として、もうありとあらゆる歌手がこの曲を吹き込む。中でも最も優れているのがサラ・ヴォーンのバージョンである。彼女はガレスピー=パーカーバンドと共に同曲を吹き込んでいるが、最も優れているのはシュリアバップセッションではないだろうか?ここでの彼女は、レディー・デイから離れて実にメロディーを伸縮している。

一方、普段は可憐な声のブロッサム・ディアリーがスモーキーな声で歌い描いたバージョンがある。これはホント好きだ。

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バップと云う音楽

March 4th, 2018 · No Comments

Twitterではプロフにアマチュアバッパーと自称しているように、ジャズの中でもバップと云うスタイルが一番好きだ。

70年代末にジャズを聞き始めたが、最初スイングから入ったので「ベニー・グッドマンやグレン・ミラーがジャズ」と思っていた矢先、FMラジオの伝説的名番組「アスペクト・イン・ジャズ」で油井先生が「バップの巨人達」と題してかけていたこの曲を聴いたのがバップとの出会いである。

それまで聴いていた歌謡曲やスイングジャズ、あるいはロックと比べてなんと軽い響きでクールなんだろう?というのが最初の感想である。その後モーダルな奏法を知ってもっと軽やかというか、フワフワとした演奏も知ったが、やはりバップは一番カッコいい。ニューヨークの香りがする。

バップ曲で一番まとまりがいいのは「コンファメ」だろうが、

個人的に好きなのは、Bbのブルーズ "Relaxin' at Camarillo" である。この驚異的なリズム感から来るメローディー。テーマをなぞっているだけでもバップをやっている気になれる。

また、ウォーデル・グレイのテナーが実にレスターっぽくて好きだ。

トリスターノ楽派はバップの、とりわけパーカーの影響を極度に排したと言われているが、レニーの呪縛を逃れたリー・コニッツは後半でパーカーのアドリブソロをそのままコピーしてユニゾンしている。

そう、いくら抗ってもやはり戻ってきてしまう、バップはイングリッシュドレープスーツと同じく、永遠にかっこいいのである。

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Billie Holiday: Last Recordings (Verve)

August 20th, 2015 · No Comments

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白鳥の歌と名高い『レディー・イン・サテン』から『ラストレコーディングス』の間に、ビリーは英国へ渡り貴重な動画を残す。

ヴァーヴに移ってから、ノーマン・グランツの勧めもあって習得した、後期ビリー・ホリデイの十八番である。第一コーラス目はほぼ原曲通りの歌い方だが、2コーラス目に入ってからの大胆なインプロビゼーションはどうだろう?「自分の人生を歌いながら、それを鮮やかに歌い飛ばす」晩年の彼女の面目躍如ではないだろうか?

同じことが、今回取り上げる『ラスト・レコーディングス』にも当てはまる。『レディー・イン・サテン』があまりにも内向的な曲想が続くのに対して(だからこそ、一枚のアルバムとして統一感があるのだが)、このアルバムは3回のセッションを集めたものであり、内容にも多様性がある。

1. All Of You
2. Sometimes I'm Happy
3 You Took Advantage Of Me
4 When It's Sleepy Time Down South
5 There'll Be Some Changes Made
6 'Deed I Do
7 Don't Worry' Bout Me
8 All The Way
9 Just One More Change
10 It's Not For Me To Say
11 I'll Never Smile Again
12 Baby Won't You Please Come Home

"All of You" はミディアムテンポで"スイーツ"のオブリガートをバックにワンコーラス歌い、中間にアル・コーンのテナーソロを挟み再びワンコーラス。アル・コーンは「アンサンブル化されたレスターヤング」とも呼ばれるフォーブラザーズの一員のためか、レディーとの相性も良い。
2曲目の "Sometimes I'm Happy" は、そもそもがレスターの名演で知られる。この演奏が吹き込まれたのが1959年3月5日なのだが、その10日後の15日、パリから満身創痍で帰国したレスターがこの世を去る。不思議な因縁か、ここでのレディーは最晩年としては素晴らしい出来を示している。冒頭はジーン・クイルのアルトとジミー・クリーブランドによるトロンボーンの掛け合い。その後二人とスイーツををオブリガートに従えてワンコーラス、メロディー通りに歌う。セカンドコーラスはメロディーを大胆にくずしてインプロバイズし、エンディングはリフレインで締める。
3曲目の "You Took Advantage Of Me" はローズマリー・クルーニーの代表曲。比較的アップテンポで歌い流している。
4曲目 "When It's Sleepy Time Down South" はサッチモの名称で知られる曲であるが、情感深く歌い上げ、とくにトロンボーンソロの後は印象的なメロディーで入る。
5曲目 "There'll Be Some Changes Made" は20年代の古い曲であるが、ここではテンポを落とし、なおかつブルージーに歌い上げている。さいごフェードアウトしているのはどういうこと?
6曲目 "'Deed I Do " も古い曲だが最近ではダイアナ・クラールが歌うなど息の長いスタンダード。

7曲目 "Don't Worry' Bout Me" こそ、このアルバムのキモであり、レディー晩年の私小説的世界を打ち破ろうという息吹が感じられる名称である。歌詞は:

Don't worry 'bout me
I'll get along
(Just you) forget about me
Be happy my love

[Just] Let's say that our little show is over
And so the story ends
Why not call it a day, the sensible way
And [we'll remain] still be friends

Look out for yourself
Should be the rule
(Just) give your heart and your love
To whom ever you love
Don't you be a fool

[Baby] Darlin why [stop and] should you cling
To some fading thing
That used to be
(So) if you can't forget
Don't you worry 'bout me
(Read more: Billie Holiday - Don't Worry 'bout Me Lyrics | MetroLyrics)
冒頭で紹介した "Please Don't Talk about Me" と同じく、この頃の彼女の心境と上手く一致した歌詞で忘れられない感動的な名唱となっている。中間のアルトソロもよい。
この後8-11は、バラードがつづき、イメージとしても『レディー・イン・サテン』に被るので詳しい批評は省略。

最後の曲 "Baby Won't You Please Come Home" はビックス・バイダーベックの時代から演奏されているジャズスタンダードの名曲だがビリーとしては初吹き込み。ここでのビリーもブルージーに歌い、2コーラス目はインプロバイズしてグルーブを演出している。吹き込みは文字通りラスト、曲順でもラストだが、曲を吹き込むのはファーストなのである。この辺りがビリーの意欲を感じさせて好きだ。

これらの吹き込みの数日後、レスターの訃報に接し、さらに彼の葬儀で歌うことも許されずに、いよいよ彼女は精神面でも健康面でも急な坂を転げ落ちるように衰弱し、1959年7月17日、その人生に終止符を打つ。

『ラストレコーディングス』と聞くと人は彼女の人生と重ね合わせ、悲惨な人生の悲惨な録音を思い浮かべるかも知れない。しかし当然のことだが「ラストレコーディング」というのは会社側がつけたタイトルであって、ビリー自身が「ラスト」という意識で吹き込んだわけではない。そしてライブでは歌っていたのかも知れないが、初録音となる "Baby Won't You Please Come Home" など、アルバムタイトルとは反対にまだまだ前進する意欲を感じるアルバムなのだ。

一応、これでビリー・ホリデイ・シリーズは完結となる。書き始めたのが2009年だから足かけ7年になる。その間、地震を含め様々なことが身に周りに起きたが、今年が彼女の生誕100年に当たるのでなんとか書き上げようと決意した次第。

まだちょっとしたライブからちゃんとしたライブアルバムまで取りこぼしもあるのだが、それはおいおい追補(appendix)という形で書き足していこうと思っている。ちなみにWordpress(このブログのプログラム)の最新アップデート版4.3もコードネームは "Billie" (当然ビリー・ホリデイの意)であり、ここにも不思議な符合を感じる。

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Billie Holiday: Lady in Satin (Columbia)

August 10th, 2015 · No Comments

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かつて英文学者の中野好夫先生がこう云うことをおっしゃっていた。「私は、学生の話を聞いていて、初めて『ハムレット』を読んで感動しました、傑作です、と言うやつをぜったいに信用しない」と。『ハムレット』には不可解な切断箇所があるし、初めて読んで感動できるようなたちの戯曲ではない、と言うのが中野先生の論旨であった。

実はこの話、『レディー・イン・サテン』にも当てはまる。このアルバムは、長いことビリーを聴いてきた人にしかピンと来ないし、ピンと来てはいけない作品なのである。なぜか?それはこのアルバムが「ビリー・ホリデイというジャンル」のあとがきであり、学生や初心者はいつの時代にあってもあとがきから読んで感想文を書いてはいけないのである。

吹き込みは1958年2月18-20にかけて。まだ亡くなるまで一年以上があるが、この時点でこの状況であったことが、逆にこれ以降の彼女の人生に襲いかかった不幸に怖気が震える。伴奏は彼女の声と対照的なまでに美しいストリングス入りのレイ・エリス楽団。そのレイ・エリス曰く「彼女は一つの音程を維持することさえ不可能であった。」

このアルバムに一曲一曲解説を加えることは、私には不可能である。なぜならばできるだけ精神性を排して技巧そのものに焦点を当てていく私の批評スタイルだと、全曲にだめ出しを加えてしまう可能性があるからだ。にもかかわらず、このアルバムを時折取り出しては聴く。それは私が「ビリー・ホリデイというジャンル」の虜になっており、このアルバムが彼女の「白鳥の歌」だからだ。

努々これから聞く人はこのアルバムから聴いてはいけない。ビリーが嫌いになるかもしれない。寺嶋靖国さんの言う「酔っ払い女がクダ巻いている歌」に聞こえるからだ。そして、初めて彼女をこのアルバムを聴いて感動してしまったとしたらもっと問題だ。心の問題を抱えているフシがある 😉

初めて聴くならまずは以前の記事で扱った、"Me、Myself, and I" "Sailboat in the Moonlight"を聴くとよい。

と言うことで、レディーを聴いてきた人向けにおすすめするとすれば、これが現状一番安価なバージョンじゃないかしら?

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Billie Holiday: At Carnegie Hall (Verve)

March 1st, 2014 · No Comments

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First Set: Roy Elderidge (tp), Coleman Hawkins (ts), Carl Drinkard (p), Kenny Burrell (g), Carson Smith (b), Chico Hamilton (d)
1. Lady Sings The Blues With Reading From Lady Sings The Blues
2. Lady Sings The Blues
3. Ain't Nobody's Business If I Do
4. Trav'lin Light With Reading From Lady Sings The Blues
5. Reading From Lady Sings The Blues #3
6. Billie's Blues
7. Body And Soul
8. Reading From Lady Sings The Blues #4
9. Don't Explain

Second Set: Back Clayton (tp), Tony Scott (cl), Al Corn (ts), Carl Drinkard (p), Kenny Burrell (g), Carson Smith (b), Chico Hamilton (d)
10. Yesterdays
11. Please Don't Talk About Me When I'm Gone
12. I'll Be Seeing You
13. Reading From Lady Sings The Blues #5
14. My Man
15. I Cried For You
16. Fine And Mellow
17. I Cover The Waterfront
18. What A Little Moonlight Can Do

1956年11月10日、カーネーギーホールでのライブコンサート盤である。
トラック1,4,5,8,13は自伝と言われる Lady Sings the Blues(邦題『奇妙な果実』)の一節を New York Timesの Gilbert Millsterinが朗読したものである。この自伝なるものについては以前にも書いたが、全く信用してはいけない書物である。ビリーが当座の金欲しさにウィリアム・ダフティーというタブロイド記者に適当に書かせた扇情的記事の集大成であり、これはウィリアムの妻メイリー・ダフティーがビリーの寄生虫であった関係からである。ビリーの音楽を耳にしながら、この自伝に感激する人は音楽的にも文学的にも絶対に信用できないことを、ふたたび強調しておく。

このカーネギーホールコンサート自体、いわゆる「出版記念コンサート」の態であり、その意味ではジャズ的興味が薄い。しかし彼女の喉の状態がよく、サイドメンもロイ・エルドリッジ、バック・クレイトン 、コールマン・ホーキンス、アル・コーンと興味深いメンバーが揃っている。リズム隊もウェストコーストを強力にスイングさせたチコ・ハミルトン・クインテットである。もっとも、サイドメンに十分なソロパートはなく、喉の調子はいいものの晩年のビリーの弱点である「おきまりの歌をおきまりの歌い方で歌う」癖に陥っていて、個人的にはそれほど勧められるものではない。

以前なら、ビリーの得意曲をまとめて聴ける名盤という側面で推薦も出来たのだが、CD時代の現在では下に紹介するようなお徳用コンピレーションが出ているので、そちらの方を強く推薦する。

こちらはマニア向けオリジナルジャケット

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Benny Goodman: Carnegie Hall Jazz Concert (Sony)

January 16th, 2013 · 2 Comments

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75年前の今日、1938年1月16日、ジャズ史上最も重要といわれるコンサートが開催された。ベニー・グッドマンによるカーネギー・ホール・コンサートである。それまで下賤な音楽と思われていたジャズが、クラシックの殿堂カーネギー・ホールで演奏された瞬間である。

このコンサートの模様がレコードとして世に出されたのはそれから12年後の '50年のこと。コンサートの実況は大型ディスクにカッティングされ、1枚は米国国立図書館収められていたがもう1枚が行方不明だったところ、たまたまベニーの娘が家の中から見つけ出したと言われている。しかし、こんな大切な記録が行方不明になるっていったい…

曲目は
Disk 1-Side A
1. Don't Be That Way
2. One O'clock Jump
3. Dixieland One Step (= Sensation)
4. I'm Coming to Virginia
5. When My Baby Smiles at Me
6. Shine
7. Blue Reverie
8. Life Goes to a Part

Disk 1-Side B
1. Honeysuckle Rose
2. Body and Soul
3. Avalon
4. The Man I Love

Disk 2-Side A
1. I Got Rhythm
2. Blue Skies
3. Loch Lomond
4. Blue Room
5. Swinging in the Rockies
6. Bei Mir Bist Du Schon
7. China Boy

Disk2-Side B
1. Stompin' at the Savoy
2. Dizzy Spells
3. Singm Sing, Sing
4. Big John's Special

私の持っているのはLP盤なので2曲("Sometimes I'm Happy"と"If Dreams Come True")がカットされているが、CD盤では補われている。

聴くべき曲は多いが、まずはオープニングの "Don't Be That Way" (その手はないよ)である。ソロのうしろでぐっと踏み込まれるジーン・クルーパのバスドラが、ジャズの勝利を祝う祝砲のように響き渡る。1-Aの3~7曲目は「ジャズの20年史」と題された企画もので、それまでのジャズ史20年の中で重要な演奏が取り上げられている。3.はODJB(オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド)にちなんだ曲であるが、曲名クレジットが間違っていて、本当は「センセーション」という曲。4.はビックス・バイダーベックに、5.はテッド・ルイス、6.はサッチモに、そして7.は実際にエリントニアン3名(ジョニー・ホッジス、クーティー・ウィリアムス、ハリー・カーネイ)を招いてエリントンにちなんだ曲である。

前半最大の聞き物は、なんといっても1-Bの1曲目、 Honeysuckle Roseである。BGのバンドメンに加え先のエリントニアン、おまけにベイシーアイツまで加わったジャムセッション。ソロはカウント・ベイシー(イントロ)→ハリー・ジェームス(テーマ)→レスター・ヤング(ts)→ベイシー(p)→バック・クレイトン(tp)→ジョニー・ホッジス(as)→ウォルター・ペイジ(b)→BG(cl)→ハリー・ジェームス(tp)の順で取られるが、圧倒的なのはやはりレスターのソロである。

2-Aの3曲目「ロック・ロモンド」と6曲目「素敵なあなた」はマーサ・ティルトンの歌入りだが、面白いことに「ロック・ロモンド」はスコットランド民謡、「素敵なあなた」はヘブライ民謡と、どちらも民謡由来の曲である。

後半最大の聞き物にして、このコンサートを象徴する演奏が2-Bの3曲目、知らぬ人とてない「シング・シング・シング」である。特に後半に聞かれるジェス・ステイシーのピアノソロは畢生の名演で、そのシングルトーンを生かしたソロは、アール・ハインズがサッチモとやった28年の「セントジェームズ病院」のメランコリックなソロを彷彿とさせる。

このアルバムは、奇しくも「ジャズの20年史」というコーナーに象徴されるように、これまでのジャズ史を集大成してその価値を高めたコンサートである。逆に言えば、これは終着点であり、ここから新しいムーブメントが起こるということはなかった。だが、このコンサートにインスパイアされたジョン・ハモンドによって、同じ1938年と39年の暮れにカーネーギー・ホールで『スピリチュアル・トゥー・スイング』コンサートが開かれることとなり、そこから新しいムーブメントが起きることとなった。

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Billie Holiday: All or Nothing at All Disc 2 (Verve)

January 3rd, 2013 · No Comments

all or nothing

Disc 2は'57年1月7,8,9日のセッション計13曲が収められている。

1. Day In, Day Out
2. Darn That Dream
3. But Not For Me
4. Body & Soul

5. Just Friends (Instrumental)
6. Stars Fell On Alabama
7. Say It Isn't So
8. Our Love Is Here To Stay
9. One For My Baby (& One More For The Road)

10. They Can't Take That Away From Me
11. Embraceable You
12. Let's Call The Whole Thing Off
13. Gee, Baby, Ain't I Good To You?

この数日ビリーは絶好調だったようだ。1曲目の "Day In, Day Out" などブランスウィック時代に戻ったかのような歌いっぷりで、歌に続くソロ(ハリー・スイーツ(tp)~バニー・ケッセル(g)~ジミー・ロウルズ(p)~ベン(ts))まで脂ののりきった演奏が続く。2曲目 "Darn That Dream" も本来とは違って若干明るい曲想で歌われ、ハリーは "It Might as Well Be Spring" の一節を、ベースのレッド・ミッチェルも "My Old Flame" の一節を引用したソロを取るなどなかなかにゴキゲンで、ちょっとハイテンションな演奏が続く。8曲目 "Our Love Is Here to Stay" のソロ後の歌など、かなり大胆にメロディーラインをアドリブしていて「ちょっと、レディーどうしちゃったの?またキメてんの?」と訊きたくなる程だ。
同じことはバラード群にも当てはまり、4曲目の「身も心」も、6曲目の「アラバマに星落ちて」、そして11曲目の「エンブレイサブル・ユー」も普段より気持ち速めのテンポでわりとロジカルに歌われていて、深く沈み込んでいくようなビリー特有の暗さがあまりない。

これらのレコーディングを聴きながらふと気づいたのだが、ちょうどのこの前年の’56年12月、ジョン・レヴィーというちんけなギャングが死んだ。この男、実はレディーのかつての愛人兼マネージャーであり、彼女を取り巻いていたろくでなし男の中でも群を抜いて質の悪いDV男であった。例えば宿泊先のホテルで彼女の髪をつかんでホテル中を引きずり回したり、絶対に反抗できないように酷い暴力を振るっていたという証言がある。この時期、別のマネージャーと別の恋人を見つけていたビリーではあったが、この男の呪縛からは逃れられていなかったのではないか。コモドアレコードのミルト・ゲイブラーも「彼女は一人、死ぬ程恐れている男がいた」と証言しているが、おそらくこのレヴィーであろう(この証言ヴィデオの背景に思いっきり彼が映し出されていた)。そいつが死んだ。幾分かの悲しみはあっただろうが、それ以上に解放感で満たされていたにちがいない。

最後のチューン、"Gee Baby" の冒頭 "What makes me treat you the way I do" のいつになく高揚した歌い方を聴くと、 このような背景に思いをはせるのである。

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Billie Holiday: All or Nothing at All Disc 1 (Verve)

January 2nd, 2013 · No Comments

all or nothing

ビリー・ホリデイ後期の最高傑作は下に取り上げた’55年8月23日と25日のセッションだと思うが、それに劣らず素晴らしいセッションがある。'56年8月14日と18日のセッション、そして「ビリーのマラソンセッション」と言われる’57年1月3日から9日までの土日を除く5日間のセッションである。これらのセッションは、生前3枚のアルバムに分散されて収録されていた。All or Nothing at All, Songs for Distingue Lovers(邦題『アラバマに星落ちて』), Body and Soul であるが、この3枚を2枚組にまとめ、なおかつ吹き込み順に並べた好アルバムを紹介する。

タイトルは1枚目のアルバムと同様 All or Nothing at All。Disk1には'56年8月14日と18日、および'57年1月3日と4日の15曲が収められている。

1. Do Nothin' Till You Hear From Me
2. Cheek To Cheek
3. Ill Wind (You're Blowin' Me No Good)
4. Speak Low

5. We'll Be Together Again
6. All Or Nothing At All
7. Sophisticated Lady
8. April In Paris

9. I Wished On The Moon
10. Moonlight In Vermont
11. A Foggy Day

12. Didn't KNow What Time It Was
13. Just One Of Those Things
14. Comes Love (Alternative Take)
15. Comes Love

まず8/14の演奏であるが、選曲がよい。スイングテンポの "Do Nothing," アップテンポでビリーも後半アドリブを展開する "Cheek," バラードの "Ill Wind," そしてラテンで演奏される "Speak Low" である。声がだんだんきつくなっていることが痛い程分かるが、どれも楽しく、そして心を打つ歌唱であり、バックミュージシャンのソロである。

18日の4曲で特筆すべきは6曲目のタイトル曲、 "All or Nothing" である。この頃になると彼女は狭まった音域をカバーするために、時に語るような歌うような節回しをするところがある。この曲のサビに聴かれる節回しがまさにそれであり、この特質は年を追うごとに強まり、『レディー・イン・サテン』に至るのである。また7曲目のエリントンナンバーに聴かれるベン・ウェブスターのソロは絶品であり、同曲のテナーソロの中でも1,2を争う。それもそのはずで、ソフィスティケイティッド・レディーと言えばエリントン楽団のバリトン奏者ハリー・カーネイだが、彼のコッテリとしたサウンドに合うように作られたこの曲を、テナーの中ではかなりのとんこつ派というかコッテリ派のベンに合わないわけがない。

'57年に入ってからのセッションでは、10曲目「ヴァーモントの月」などもはや出すことの出来ない高域を補う工夫がされていたりするが、1月4日のセッションではかなり調子がよく、「時さえ忘れて」も「ジャスト」もヴァースから歌い、ソロを挟んだ後半では「あの頃」のような独自のタメと後乗りでスイング感も満載である。そして "Comes Love" 別テイクを含むこの曲は、「ビリーのマラソンセッション」中でも最高の出来を示した1曲である。

Disk2の各曲については、いずれまた(っていつになるやら・・・)

オリジナルがいいという方のためには。

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Billie Holiday: Music for Torching (Verve)

May 9th, 2011 · No Comments

ヴァーヴにおけるビリーの第5集である。このアルバムはオリジナルでは8曲の構成で、ほとんどの曲が「トーチソング」と呼ばれる、身も心も焦がす松明のような愛の歌であったためこのように題されている。現在では、このオリジナル盤CDのほかに同時期に発売された Velvet Moods とカップリングしたものがあり、ここではそのカップリング盤をテーマとして取り扱う。

というのも、このオリジナル盤で2枚にわたるアルバムはすべて’55年8月23日と25日に同じメンバーによって吹き込まれたものであり、さらに重要なことに、ここで取り上げられた曲のほとんどが、「ノーマン・グランツによってサジェストされたビリーにとっての新曲」だからである。ヴァーヴ時代のビリーの弱点として声の衰えとともに「決まり切った曲を、決まり切った歌い方で歌う」ことが挙げられることは、以前にも指摘したとおりであるが、ヴァーヴのプロデューサー、ノーマン・グランツの努力もあって、いくつかの新曲に挑戦している。その多くがこのアルバムに収められている点が重要であり、2枚に分散して集めるよりも、この1枚で聴いた方がすっきりと見やすいと思うのである。

今回が初出ではない曲は "I've Gotta Right to Sing the Blues," "Nice Work if You Can Get It," "Fine Romance," "Everything I Have Is Yours" であるが、特に前者3曲は久しぶりの吹き込みであり、事実上新曲と変わるところがない。そしてどの曲も、前日にトリオによる入念なリハーサルが施されていることも注目に値する。おそらくこの日ビリーとグランツの意気込みは相当なものであったのではないだろうか。

メンバーはビリーのほか、ハリー・エディソン(tp)、ベニー・カーター(as)、バーニー・ケッセル(g)、ジミー・ロウルズ(pとセレステ)、ジョン・シモンズ(b)、ラリー・バンカー(ds)。

特筆すべき曲としては6曲目の "Please Don't Talk about Me"。「私がいなくなってから、あれこれ陰口叩かないで」という内容の歌で、ビリーの人生や死後と重ね合わせていろいろ詮索できるが、そういうのは意味がなくて、この演奏そのものがすばらしい。この曲の原メロディーは出だしから上昇下降の音型がはっきりしていて、プリーズの「プ」アバウトの「ア」、アイムの「ア」を山として上がったり下がったりするのであるが、ビリーはここで再びメロディーの動きを簡素化し、変わってリズムに彩をつけていく。まさにビリー・ホリデイ的瞬間である。特に、ソロが終わってから歌うワンコーラスは圧巻で、"Listen!"という間投詞の絶妙なタイミング、"if you can say anything real nice" を叩きつけていく下り、サビのメロディーとリズムの改変、そして"Makes no difference" に入るまでの、気の遠くなるような3拍半のタメ、どこをとってもビリー・ホリデイでしかなしえない名唱である。間のソロも、構成力と力強さのベニー・カーター、モダンな感覚のバニー・ケッセル、同時代を共有していたハリー・エディソンの名演が光っている。私は、この演奏を後期におけるベストの一つとして、前期の "Me, Myself and I" に匹敵しうるものだと考えている。もちろんジャズ的興味からの観点ではあるが。そして彼女はこの曲を気に入ったようで、これ以降何度か吹き込みをしていて、最晩年のロンドン公演で歌う映像も残されている。

10曲目の "I've Gotta Right to Sing the Blues" は'39年4月29日の「コモドアセッション」つまり「奇妙な果実」の吹き込みと同じ日のセッション以来16年ぶりの吹き込み。この歌が形式としてのブルースではないことについては以前に述べたが、それでもブルースフィーリングを感じさせるとも指摘した。今回の吹き込みは、バックのエディソンの熱演も手伝ってさらにブルース度が上がっていて、とてもできがよい。

さらにすばらしい成果といえるのが、12-13曲目の "Fine Romance" である。12曲目はテイク2でリハというか流していく感じ、13曲目はテイク8、つまりそれだけテイクが重ねられて完成した。テイク8ではベニー・カーターとハリー・エディソンによるオブリガートが、往年のレスター・ヤングとバック・クレイトンのそれを彷彿とさせ、実に生き生きとした演奏になっている。

ラテンリズムで演奏される15曲目の "I Get Kick out of You" はビリーの歌とそれに絡むハリーのオブリガートもすばらしいが、そのあとに出てくるベニー・カーターのソロが抜群で驚異的ですらある。プレモダンのアルト(つまりパーカー以前のアルト)ソロとしては1,2を争う名演。後半の歌に対するハリーのオブリガートはちょいとやり過ぎ:P

私はジャズの観点が強すぎるのか、どうしてもミディアムテンポ以上のものをよしとする傾向があるけれど、ここで取り上げた曲以外でも十分に聴き応えのある演奏と歌であることは間違いない。


または
 

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