「ジャズの聴きかたに法則はない」といったのは寺島さんであるが、ジャズであれなんであれ方法を学ぶ事は大事だと思う。とりわけこの感を強くしたのはブラッド・メルドーの「ライブ・アット・ザ・ヴィレッジヴァンガード」の聴き方を某ピアニストに手ほどきしてもらったときのことであった。
これはいつも行くタワレコでかなりお勧め度が高かったので購入したのだが、あまりピンと来なかったので聴かないで仕舞っておいた。あるときそのピアニストが遊びに来て「いいの持っているじゃん」と言いながらこれをかけたから、この演奏に感じる不満をぶつけてみた。「この『オール・ザ・シングス』のテーマ、フシが間違ってない?」、「アドリブパートも、なんだかギクシャクして訳が分からないんだけれど?」等々。
その人の言うには「これはリズムをギリギリまで改変している演奏なんだ」、「右手と左手で違うビートを演奏している」ので、「聴くべきところはそうした複合的なリズム(ポリリズム)なのだ」ということであった。そしてポーズ機能を使いながら、それぞれの演奏と聴き所のポイントについて解説をしてもらった。その後で見違えるほどこの演奏がよく聞こえた、というドラマチックな事はなかったが、彼の解説を念頭に置きながら何度か聴いているうちにおぼろげながらこのアルバムのすごさが見えてくるようになった。
「音楽を学ぶなんておかしい、感じればいいだけなんだ」という意見をたまに耳にするが、それは違うと思う。思想や学問だけではなくて感性もまた学ぶことによって磨かれていくのだから。感性一発勝負の天才に見えるパーカーもこう言っている。
学問はあらゆる形式で絶対的に必要なものだ。どんな才能も、なにもせずに生じる事はない。履き心地のいい靴を、ぴかぴかにするようなものだ。学校教育が、この世のどんな才能にも洗練をもたらす。アインシュタインだって学校教育を受けた。彼自身が天才だったのも確かだけれど。学校教育はこの世で最もすばらしいものの一つだと思うよ。(カール・ウォイデック著『チャーリー・パーカー―モダン・ジャズを創った男』
この記事で取り上げたCDと書籍
0 responses so far ↓
There are no comments yet...Kick things off by filling out the form below.
Leave a Comment