1956 Series (7)
'56年という年はこれまで挙げてきたような超弩級の名盤が生まれた年ですが、同時に何気ないレコードでも後に名盤と呼ばれるような作品が吹き込まれた年でもありました。たとえば今回取り上げる『ジャズ・プロフェッツ』などはそういうB級名盤の筆頭格みたいなもので、歴史を刻むようなA級名盤以上に愛好者が多い一枚です。しかも、こうしたB級名盤のほうが本当の意味で'56年らしいとも思うのです。
リーダーはケニー・ドーハム。本当は、この綴りだと「ダラム」と呼ぶはずですが、日本語ではこの呼び方が定着しています。ひょっとしたら名前なので普通とは異なる読み方をするのかも知れません。同じように、Kenny Drewも綴りからいうと「ケニー・ドルー」となるはずですが「ドリュー」という呼び方が日本では定着しています。これと同じ例が、マイルス畢生の名作Bitches Brewです。これはどう読んでも『ビッチェズ・ブルー』ですが日本では『ブリュー』と表記しますね。妄想を逞しくすれば、「ブルー」と読んでしまうと「青」が連想されてあまり新奇な感じがしないけれど、「ブリュー」と書けばなんとなく新奇な感じがして、それがこの作品のペキュリアーな感じを上手く連想させるからこのカナ書きが定着したのかも知れません。
話が脱線しました。このケニー・ドーハム、マイルスのように常に新しい試みをして時代を切り拓くタイプのトランペッターではないですが、中音域を主体とした地味だけれど哀愁のあるトーンで演奏をするすばらしいペッターです。彼をリーダとして作られたグループがタイトルにもなっている「ジャズ・プロフェッツ(ジャズの予言者)」です。テナーはジャック・モンテローズ、白人ですが黒人のようなリズム主体のテナー奏者です。本来はアルトのジャッキー・マクリーンが加入する予定だったのですが、チャールズ・ミンガスにぶっ飛ばされて歯を折ってしまい、代わりにモンテローズが参加したそうです。そのミンガスとマクリーンは『直立猿人』で共演していますから、その直後のことだったのでしょう。ピアノはディック・カッツ、彼も白人(ドイツ系?)ピアニストです。ベースはサム・ジョーンズ、ドラムはアーサー・エッジヒル。この二人は名盤『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』でも一緒ですね。
一曲目は "The Prophet"。ドーハムのオリジナル。このアルバムは "Don't Explain" を除いて全てドーハムのオリジナルです。マイナー調の曲想で「ペック」と呼ばれるフレーズが特徴ですが、これはこの頃流行っていたんでしょうかね。『カフェ・ボヘミアのウォーリントン』にも、まさにタイトルが「ペック」という曲があります。ちょうど鳥がついばむような調子で短いフレーズの畳みかけを特徴とします。この「ペック」をはじめ、マイナー調、テンポ、ソロのカラー、どれをとっても「B級ハードバップ」の臭いがムンムンします。四谷「いーぐる」の後藤雅洋氏がマクリーンのところで言っていますが、こういうB級バップって説明が面倒なんですよね。マイルスやロリンズ、コルトレーンのようなA級の面々は「ここが彼ららしさ!」と一発で指摘できる特徴を持っていますが、B級の場合、そんなに極端な特徴はなく、どれも「ジャズ」としか言いようがないもので、あとはそのメンツの癖や味みたいなものを鑑賞する感じです。ただ、B級バップと呼ばれるものは大体マクリーンやモンテローズ、ハンク・モブレーみたいにちょっと見通しの悪いフレーズをくすんだ感じの音色で吹くサックスが参加しているという印象があります。そのせいで全体がくすみ色なのが特徴になります。
2曲目は "Blues Elegante"。普通のブルースですが、こういう普通のブルースが味わえるようになるとジャズに本格的にはまったことになると思います。3曲目の "DX" はリズムチェンジの曲。循環は基本的に曲の雰囲気というよりもソロの妙技を楽しむ演奏です。ここでのモンテローズは、リズムのアプローチがロリンズやパーカーよりも古いコールマン・ホーキンス風になっていて面白いと思います。ピアノソロの後4バースを経て終わります。ビリー・ホリデイの "Don't Explain" はこのアルバムで一番好きな演奏です。ビリー自身が淡々とした歌い手ですが、そのイメージをなぞるようにドーハムがミュートをつけて哀愁のあるプレイをしています。あいだに挟まるカッツのピアノソロも、どことなくマル・ウォルドロン風で「レフト・アローン」を思い出します。最後は "Tahitian Suite"(タヒチ組曲)。6/8のテーマでエキゾチックというか、哀愁のあるテーマでドーハムの特徴全開。ソロになると4ビートになって伸び伸びとしたソロを各人がとっていきます。
このレコードはマイナー中のマイナーレベール「ABC」原盤であったことから、一頃は幻盤扱いされていましたが、後藤さんたちが雑誌でプッシュしたおかげもあってCDで再発されました。ちなみにこれは「Vol. 1」ですが「Vol. 2」はありません。その前にこのグループ「ジャズ・プロフェッツ」自体が解散してしまったからです。
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