1956 Series (6)
『スティーミン』が発売されたのは録音から5年後の1961年だったにもかかわらず、雑誌での評価は満点の五ツ星であったといわれています。マイルス自身は'59年に名作 Kind of Blue を生み出して新しい地平に乗り出していました。にもかかわらず、旧作といっていいほどの録音が満点を取ったことにはマイルスの凄さを感ぜざるを得ません。おそらくその頃発売されたその他のアルバムを圧倒する出来だったのでしょう。
一曲目の "Surrey with the Fringe on Top"(「飾りのついた四輪馬車」)はスタンダードですが、前回もふれたアーマッド・ジャマルのレパートリーです。そのせいでしょう、レッド・ガーランドが弾くイントロもジャマル臭全開になっています。マイルスはミュート。"Bye Bye Blackbird"などにも言えますが、これぐらいのテンポの曲の場合マイルスはまるで歌手みたいに歌うソロをとりますね。ブレークを経てコルトレーンのソロになりますが、この出だしは後年まで変わらないコルトレーンのトレードマークだと思います。けれどだんだんネタ切れになったのか、後半少しバラバラになっていくところはまだ'56年だからということでしょう。ガーランドのピアノソロもちょっと跳ねる感じで歌っています。
2曲目 "Salt Peanuts"はディジーの書いた有名なバップ・ナンバーです。一曲目とはうって変わって急速調の演奏になり、マイルスも「ペットの下手なマイルス」という評判の仇討ちをするように火を噴くソロをとります。ガーランドとコルトレーンのソロは短く、その後でフィリーの長尺ドラムソロがフィーチャーされます。私は普段ドラムソロが始まるとコーヒーを注ぎに行ったり、トイレに入ったり、テーブルの周りを片づけ始めたりと別の用事をしてしまうことが多いのですが、ここでのドラムソロはいろいろなリズムをとっかえひっかえ叩き出す、面白いドラムソロです。そのまま最後まで行きテーマを一回やって終わり。フィリーのための一曲になっているようです。つづくバラッド "Something I Dreamed Last NIght"は、コルトレーンがお休みでマイルスのミュート・ソロが中心。いつ聴いてもいいですね。これはマイルスの特徴なのかも知れませんが、自分が一回ソロをとって、他の人に回して、もう一回テーマに戻る前にソロを吹いて(4バースをせず)そのままなし崩しにテーマへとなだれ込むことが多いですよね。そしてどういうわけか、おしなべてその部分(つまり2回目のソロ)の出来が非常にいいように思います。この演奏にもそれが当てはまります。
"Diane" もマイルスはミュートです。この演奏の特徴はなんといっても「コルトレーンのリードミス」でしょう(笑)。流行歌の感覚ではこんなのボツですよね、思いっきり「ピーッ」て音外していますから。でもジャズではこれもありなんです。もしリードミスを全部ボツにしたらパーカーのサボイ盤半分ぐらいはボツになってしまいます。5曲目の "Well You Needn't"はモンクの曲。マイルスはどんな奇妙な構造を持った曲も、綺麗なメロディーの流れに還元して吹いてしまうのが魅力ですが、その分この曲の場合その「髄」みたいなものが見えてこないように思います。一方コルトレーンは、どんな単純な曲でも複雑なコードトーンの羅列に分析してしまうので本来モンクの曲とは相性がいいはずなのですが、ここではいまいちソロが発展せず、同じようなリズムパターンの繰り返しばかりしています。その分というか、ガーランドのピアノとチェンバースのベース(アルコ)は結構乗っています。
締めはバラッドの "When I Fall in Love"。マイルスはミュートで原曲を極端に崩すことなくしっとりと吹いています。こういう演奏は、一枚のアルバムのなかで聴くと「ふーん」という感じの印象を持ちますが、街角や居酒屋なんかで耳にすると「ハッ」と耳をそばだててしまうタイプの演奏ですね。
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