ジャズ・ギターに関しては、グラント・グリーンの記事でも書いたように長年にわたって偏見を持っていたため、正確なトップ・テンという自信はありません。サックスだとフュージョンに深く分け入ってもある程度判断や評価が出来るのですが、ギターでフュージョンの奥地に入られると、そのサウンドだけで判断停止してしまうようなところがあるからです。ということで、かなり極私的なトップ・テンなのでご容赦ください。いや、トップ・テンというより「好きなジャズ・ギターアルバムまとめて紹介」といったほうが正確かもしれないです。
第1位 Feelin' the Spirit / Grant Green (Blue Note)
グラント・グリーン(g) ハービー・ハンコック(p) ブッチ・ウォーレン(b) ビリー・ヒギンズ(ds) ガーヴィン・マッソー(tb)
このアルバムが1位に来ているところからして極私的ですね。私がジャズ・ギターに興味を持ち始めるきっかけとなったるバムです。グラント・グリーンは『アイドル・モーメンツ』や『抱きしめたい』など有名なアルバムを含めて相当な枚数をBNから出していますが、全編黒人霊歌という点と、ハービーさんが参加して「ありきたりのソロ回し」に終わらずインタープレイの要素などもある点で1位に推奨できるアルバムです。(>記事を読む)
第2位 Incredible Jazz Guitar / Wes Montgomery (Riverside)
ウェス・モンゴメリー(g) トミー・フラナガン(p) パーシー・ヒース(b) アルバート・ヒース(ds)
「信じられぬジャズギター」とはウェスのテクニックのこと。シングル・トーンからオクターブ奏法、そしてコードソロへという展開は文字通り「信じられない」テクニック。『フルハウス』と『ハーフ・ノート』は本文中で紹介したので、こちらを取り上げます。
第3位 Portraits of Duke Ellington / Joe Pass (Pablo)
ジョー・パス(g) レイ・ブラウン(b) ボビー・ダーハム(ds)
パブロのジョー・パスといえば『ヴァチュオーゾ』というソロアルバムが筆頭に来ますが、これは上手すぎて聴き疲れします。息つく暇がないから。一方トリオ編成の本作は、エリントン曲という枠がきっちりはまっているせいかブレがなく、ジョー・パスのテクニックがエリントン・ハーモニーの世界を美しく描き出しています。1曲目 "Satin Doll" を下で紹介する『ポール・ウィナーズ』の同曲と聴き比べるとバーニー・ケッセルとジョー・パスの特性の違いがくっきりと理解できます。
第4位 Jazz Immortal 1947 / Charlie Christian (Esoteric)
チャーリー・クリスチャン(g) セロニアス・モンク(p) ディジー・ガレスピー(tp)他
ジャズ・ギターのみならず、ジャズの歴史そのものに対してチャーリー・クリスチャンが果たした役割は大きく、夜な夜な仕事(ベニー・グッドマンのコンボ)がはねた後、ハーレムのクラブで行われた「アフター・アワーズ・ジャム・セッション」に参加しては新しいアイデアを披露し、ビバップの基礎を作ったといわれています。正規の仕事ではないので録音が残されていませんでしたが、隠し録りされたテープが見つかり、ビバップ黎明期の姿が明らかになりました。そのテープをレコード化したのが本アルバムです。
第5位 Poll Winners / Barney Kessel (Contemporary)
バーニー・ケッセル(g) レイ・ブラウン(b) シェリー・マン(ds)
雑誌の読者投票で選ばれた3人で編成したギター・トリオの第一作目がこのアルバム。その後何作か作られますが、聞き比べてみてもやはり優れているのがこれ。 バーニー・ケッセルはチャーリー・クリスチャン直系のギタリストで、各所に「まんまチャーリー・クリスチャンのフレーズ」が聴かれますが、それもご愛嬌。"Jordu" から "Satin Doll"の流れがしびれます。(>記事を読む)
第6位 Exit / Pat Martino (Muse)
パット・マルティーノ(g) ギル・ゴールドスタイン(p) リチャード・デイビス(b) ビリー・ハート(ds)
病にたおれる前のマルティーノは多作かつどれも名作ですが、心に残る一枚というとやはり本アルバムです。1曲を除いて全てスタンダードにもかかわらず、曲に寄りかかった受け狙いの要素は全くありません。それはなぜか。曲の隅々にまでマルティーノ独自の解釈と意識が浸潤しているからです。どの曲からも新たな面を引き出しているからです。(>記事を読む)
第7位 Still Life / Pat Metheny (Geffen)
パット・メセニー(g) ライル・メイズ(key) スティーブ・ロドビー(b) ポール・ワーティコ(ds)他
このアルバムをジャズ喫茶の店先で聴いた時は、「またフュージョンか!」という思いでしたが、じっくり聞き込んでみると志が深い。今ブームになっているエコロジーとかオーガニックとか、それまでのジャズに見られた不良性とは一線を画すアルバム。メセニーを聴くときは思いっきりジャズ化したアルバムよりも、むしろこういう独自路線を聴いたほうが、その本来の味わいが分かるかもしれません。
第8位 Midnight Blue / Kenny Burrell (Blue Note)
ケニー・バレル(g) スタンレー・タレンタイン(ts) メジャー・ホリー(b) ビル・イングリッシュ(ds) レイ・パレット(conga)
いろいろな都合で8位に来ていますが、レコーディング・エンジニアのルディー・ヴァン・ゲルダーが自らのリマスター物の中でも会心の出来だと語ったブルー・ノートの名作です。都会的なブルースを弾かせればこのケニー・バレルの右に出るものはいません。(>記事を読む)
第9位 Man with the Guitar / Herb Ellis (Dot)
ハーブ・エリス(g) モンティー・バドウィック(b) ロン・フェイアー(org) テディー・エドワーズ(ts) スタン・リービー(ds)
いまの人はハーブ・エリスなんて知っているのかしら?という思いで取り上げました。オスカー・ピーターソンのドラムレス・トリオの一角をになったハーブ・エリスは、実にしっかりしたテクニックの持ち主で、本アルバムでも南部風の匂いのきついブルースをコテコテに弾きこんでいます。
第10位 Tal / Tal Farlow (Verve)
タル・ファーロウ(g) エディー・コスタ(p) ヴィニー・バーク(b)
タル・ファーロウもまた優れたテクニックと独自の音色を備えた個性的なギタリストです。本アルバムは彼の代表的なもので、冒頭曲 "Isn't It Romantic?" のテーマに聴かれる野太いサウンド、アドリブにでてくるこれ見よがしとも取れる16分の速弾きなど彼の持ち味が全開となった名アルバムです。
まだ、ジョニー・スミスやジム・ホール、バーデン・パウエルといった巨匠、ジョン・スコフィールドやジョン・マクラフリン、マイク・スターンのようなフュージョンにも色目を使う中年、ジェシ・ヴァンルーラーやピーター・バーンスタインといった若手4ビートなど取りこぼしています。こう考えると、ギターの人材も多士済々ですね。
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