死者を悼む歌をエレジー(elegy)といいます。英語で書かれた3大エレジーと言えば、トマス・グレイの "Elegy Written in a Country Churchyard"(「墓畔の悲歌」), アルフレッド・テニスンの In Memoriam(「イン・メモリアム」), そしてホイットマンの "When Lilacs Last in the Dooryard Bloom'd"(「ライラック・エレジー」)ですが、ジャズの3大エレジーといえばなんでしょう?私が思うには、「ジャンゴ」「クリフォードの思い出」そして「湯の町エレジー」です。まあ、最後のは冗談ですが、この前の授業で英米文学3大エレジーの話をしていて、「ライラック・エレジー」の代わりに「湯の町エレジー」といったらノートに取っている学生がいて慌てました。近江俊郎を知る学生も今はいないんですね。実際には何がふさわしいでしょうか?「バディー・ボールデンの思い出」("I Thought I Heard Buddy Bolden Say")なども味わい深い名曲ですが、前二つほどポピュラーでもないし、取り上げられる機会も少ない。"He Loved Him Madly" もその後頻繁に取り上げられている曲ではないし、"The King Is Gone" にもそれほどのポピュラリティーがあるとは思えないわけです。
むしろ、アルバム一体としては、今日取り上げる『レフト・アローン』がビリー・ホリデイへの追悼盤として著名であり、「レフト・アローン」という曲もしばしば取り上げられるので、3大エレジーの一角に食い込ませてもいいのではないかと思います(って、ジャズ3大エレジー論争なんてないのですが)。ただこの曲は、ビリーへの追悼曲ではなく、ビリーの生前に書かれた曲である点でいまひとつしっくりこない。さらに驚いたことにAmazonのレビューを見ていたら、「レフト・アローン」のセッションもビリー存命中のものだったという記事があって(2曲目以降のトリオ演奏は死後ですが)、このレビュアーが日時を捏造する必然性も全くないのでおそらく本当だとすると、ますますこれがエレジーでいいのかという疑念は強くなります。が、まあいいでしょう。枕なんですから 8)
このアルバムの冒頭1曲目にしてタイトル曲の「レフト・アローン」。とても哀愁たっぷりの魅力的な演奏です。リーダーはマル・ウォルドロンですが、ビリーのパートをアルトで吹くジャッキー・マクリーンが全部持っていってしまいました。『サムシング・エルス』の「枯葉」みたいです。非常に人気の高いアルバムですが、こうも人気が高いと「人の知らないことを知ったかぶりする快感」に支配されがちのジャズファンの中には色々とけちをつける人が出てきます。いわく、「日本人好みの曲想だ」。自分がアメリカ人になったつもりで書いています。いわく、「軟弱マクリーンだ」。フリーでも聴いていてください。いわく、「盤が磨り減る前に飽きる」。SPと違ってLPが磨り減ったの見たことないんですが、針圧間違えていませんか?
2曲目 "Cat Walk" は1曲目の陰に隠れていますがなかなかの名演。特にベースのジュリアン・ユーエルが頑張ってウォーキング・ベースにソロに活躍します。ただA面3曲目以降はあまりピンと来る演奏がなくて残念。でも冒頭2曲の魅力で充分です。
ちなみに、冒頭で述べた3大エレジーのうち、テニスンの『イン・メモリアム』は学友の死を悼んだ詩であり、ホイットマンの「ライラック・エレジー」はリンカーンの死を悼んだエレジーです。
Amazonのユーズドではとんでもない値段をつけているので買う必要はないです。いずれすぐに再発されます。下のリンクは「録音日時の問題」が指摘されているレビューが乗っているので貼りました。
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