アルバムのタイトルというのは重要なもので、いくら中身が名作であってもタイトルが凡庸だと食指が動かないことが多いものです。しかし、マイルスやその他何人かのミュージシャン、あるいはプロデューサーのように「トータル・コンセプト」を考えてアルバム作りをすることが比較的少なかったジャズ業界では凡庸な、というより区別のつきづらいタイトルを平気でつけているものが多い。以前に紹介した『バド・パウエルの芸術』も原題は Bud Powell。バド・パウエルの『バド・パウエル』ってのはいったいどういう料簡だ?と思うわけです。アルバム作りが丁寧だったBlue Noteにもハンク・モブレーの『ハンク・モブレー』というアルバムがあります。更に同じBlue Noteから『ハンク』というアルバムも出ていて、これらはもう凡庸を通り越して手抜き、努力目標の欠如を感じさせるほどです。しかし、ファンのほうはこれに対抗するために色々な手立てを尽くします。ハンク・モブレーの『ハンク・モブレー』に対しては、そのレコード番号1569をそのまま読んで「イチゴーロクキュー」と称してファンの間でコミュニケーションをとるわけです。
今回紹介するアート・ペッパーの The Art Pepper Qaurtet も同じく、特徴も個性もあったもんじゃないタイトルなので、ファンはこれを『タンパのペッパー』と呼び習わすことで意思疎通を図っているわけです。タンパ(Tampa)とはレーベル名。アート・ペッパーはタンパから2枚のアルバムを出していて、もう1枚は『マーティーペイチ・カルテット・フューチャリング・アートペッパー』といいます。
メンバーはアート・ペッパーのほかラス・フリーマン(p)、ベン・タッカー(b)、ゲイリー・フローマー(ds)、ワンホーンです。1曲目 "Art's Opus" は文字通り「アートの作品」。元歌は「君微笑めば」でしょうか、実に快適にスイングしています。2曲目のスタンダード "I Surrender Dear" はスローバラードとして演奏されることの多い曲ですが、やはりここでは快適なスイングナンバーとしてテンポ設定されています。これがなかなかよい。3曲目の "Diane" はアート・ペッパーの何番目かの奥さんで、薬中のペッパーの気をひくために自らも麻薬にのめりこみ、やがてガンに冒されて亡くなった人です。この頃はまだ恋人関係であったと思います。哀調あふれるバラード。4曲目 "Pepper's Pot" もアートのオリジナル。
そして5曲目 "Bessame Mucho"。これこそこのアルバムのハイライトで、多くの人を惹きつけている1曲です。原曲はもっとあっさりとした曲ですが、それを捏ねに捏ね、情緒纏綿、哀愁あふれるフレーズとおかずの嵐で見事な作品に仕上げているわけです。マイナーキーで日本人向きといわれますが、私もやはりこの演奏に見せられた口です。6曲目はブルース、7曲目のリフ曲 "Val's Pal" はどちらもペッパーのオリジナルです。
CDになって別テイクがドヤドヤと追加されましたが、上手いことに後ろにまとめてあるので、うるさく感じる人はプログラム再生で無視すればいいでしょう 😛
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