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Billie Holiday: The Very Best of Billie Holiday

July 30th, 2007 · 3 Comments

ken burns billie

ビリー・ホリデイがなかなか紹介しづらい歌手であることは以前に述べ、またDVDでいわゆる「伝説」を払拭してから聴いたほうがいいと書きましたが、今回はベスト集を紹介したいと思います。

ビリー・ホリデイは大きく分けると3つの時期、細かく分ければもっと細かい時期に分かれますが、ブランスウィック・セッション期?デッカ・コモドア期?ヴァーヴ期というのが見やすい分け方でしょう。私が個人的に好きなのはブランスウィック・セッションの時代で、この頃は特に大スターでもなく、ホーン奏者の一員となってセッションに参加しているわけです。これはある程度ジャズなり音楽なりを聞き込まないと見えてこない。感性といっても所与のものではなくて諸経験の総体ということです。この時期のビリーは楽器と同じようにアドリブをしているし、それがスキャットによらず歌詞のままのアドリブなので、元歌を知っていることと英語がある程度わかることが必須になってくるからです。それに比べるとデッカ・コモドア時代、そしてヴァーヴ時代はニュアンスとか声質といったもっと深いレベルでもたらされる感動なので言語や経験の枠を超えているのです。

今日紹介するアルバムを私は持っていませんが、それぞれの音源は持っていて聴き込んでいます。この「ケン・バーンズ・シリーズ」はなんとなく終了の方向なので、現物が買えるいま紹介しておこうと思ったわけです。ここにはブランスウィックからデッカ・コモドア時代、ヴァーヴ時代、そして最晩年のコロムビアでの吹き込みが収録されています。これで大体ビリーの全容が分かると思います。

1,2,3曲目はブランスウィック・セッションから。どれも名演ですが特に3曲目の "Me, Myself, and I" は、よくぞ入れてくれたというほど、知る人ぞ知る本当の名演です。2コーラス歌うのですが、2コーラス目のアドリブがすごい。元歌よりも乗りに乗ったメロディーで、信じられないような「ずらし」をやっています。譜面として書けばマーヴィン・ゲイの "Sexual Healing" をその場でやった感じで、まあ精緻を極めたリズムの彩を繰り広げています。

5曲目の "Strange Fruit" は言わずと知れた歴史的名演。私も授業でこれを聞かせることがあるのですが(嫌がらせではないです 😛 ) 、自叙伝の記述ではないけれどシーンと波を打ったように静かになります。私個人としてはそれほど好きじゃない歌なんですけれどね。

8曲目の "Solitude"。エリントンの曲で、「ソリチュード(孤独)」を歌った歌なのですが、これはすごい。デッカでの吹き込みだと思われますが、この曲としてはロリンズの「ウェイ・アウト・ウェスト」と並び称される名演です。ビリーの特質は私などが語るよりも、桑田佳祐(サザン・オールスターズ)の「星空のビリー・ホリデイ」を聴いていただければ分かるのですが、「呟くような」歌い方なんですね。12小節の純ブルースを歌うことは少なかったのに「ブルースを歌うレディー」と言われたのは、この歌い方とちょっとフラットがかった音程が大きく関係しています。そのせいでどの歌もブルースのフィーリングが溢れているからです。

ビリー自作の曲が9曲目 "God Bless the Child" です。邦訳は「財は自ら築くべし」、母親からお金を無心された時に口をついて出たことわざ、"God bless the child that got his own" (自分の分を自分でとるものを神は祝福する)から膨らんでいった曲だと自叙伝では語っています。こういうテーマは古いブルースにはよくありましたが、ここでは12小節ではなくて、サビを持った32小節の歌になっています。それでもテーマといいフィーリングといいブルースが漲っているわけです。これは各時代にまたがって吹き込んでいますが、これもデッカ時代の吹き込みです。私が一番好きなのはヴァーヴでの吹き込みです。

13,14曲目の "Lover Man" と "Don't Explain" はデッカの名演でしょう。この頃からビリーは自分の特質が「トーチ・ソング」にありと自己定義をしていきます。トーチ・ソングとはトーチ(松明)のように身も心も焦がす愛の歌のことですが、そのせいでテンポは遅くなりアレンジは重厚になり、ジャズ的な魅力からはちょっと遠ざかるのが残念です。しかし、この時期のビリーが一番円熟しているとも言われます。

16曲目 "Autumn in New York" は、ヴァーヴ時代。この時期だと、私としてぜひ入れて欲しかったのが "Please Don't Talk about Me When I'm Gone"。 まるでブランスウィック時代に戻ったかのごとき奔放なアドリブが聴けます。

18曲目の "Fine and Mellow" はテレビ用の吹き込みでしょうか。ステレオ録音で往年の名手たち、つまりコールマン・ホーキンス、ベン・ウェブスター、レスター・ヤング、ロイ・エルドリッジらと吹き込んだ演奏だと思います。テレビ映像のバージョンだとコールマン・ホーキンスの姿は見えるのですが音は聞こえません。しかし音声バージョンだとしっかりソロを取っています。また、この吹込みでは冒頭にビリーのアナウンスが聞けます。

そして最後、19曲目 "You've Changed" 。『レディー・イン・サテン』というアルバムからです。サテンと言うタイトルとは裏腹にザラザラした声になってしまったビリーが涙を誘います。バックのストリングスが美音なのでなおさらビリーのかすれて駄目になった声との対比が際立ちます。しかしパーカーのラバーマンセッションと同じく、それでも感動させる天才の不思議さを感じさせる優れた演奏だと思います。

Tags: Holiday, Billie · vocal

3 responses so far ↓

  • 1 yas // Jul 30, 2007 at 7:56 pm

    ビリー・ホリディは、U2というバンドが、
    「エンジェル・オブ・ハーレム」という曲で
    ビリー・ホリディの事を歌っていました。

    本日、休みだったので、とあるレコード屋に行ったら、
    ワタクシが捜し求めていた、ギル・エヴァンスのCDを
    あっさりと手に入れてしまいました(笑)

    ブログに書いたので、読んでやって下さい。

  • 2 えんたつ // Jul 31, 2007 at 9:06 am

    この間は僕の所に来て頂いてありがとうございました。
    最近この頃のjazzはあまり聴かなくなってしまいました。
    でも、こういうブログを読むとまた聴きたくなりますね。
    僕はボサノヴァは聴くのにJazzボーカルはあまり聴かないんです。
    こんどちゃんと聴いてみようかなと思います。
    特にビリー・ホリディは疎遠でした。
    それにしても読みごたえあるブログですね。
    感心します。

  • 3 G坂 // Jul 31, 2007 at 9:42 am

    >yasさん
    実地に出かけて、実際に手にとって見て、実物を買う。私の周りでもこういう「実」が最近減ってしまったような気がします。もどかしくて面倒くさくくて、ネットでススっと検索し注文したほうが楽なんですけれどね。その行き着く先が配信コンテンツだとしたら、私は面倒なほうを取りたいです。

    >えんたつさん
    テキトーな駄文を連ねているだけなので、お恥ずかしい限りです。

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