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Charles Mingus: Cumbia & Jazz Fusion (Atlantic)

June 23rd, 2007 · No Comments

Cumbia & Jazz Fusion

このアルバムについても以前ブログの記事で取上げましたが、長年探していたものです。現在、リンク先のamazonでは中古で5,000円以上取っているようです。このアルバムが録音されたのが'76年なので、'77年発売と考えても私がジャズを聴き始める少し前のことになりますが、聴き始めた頃も雑誌などでよく取上げられたり広告ページに載っていたように記憶しています。しかし、このタイトルが良くない。当時猖獗を極めていたフュージョンという言葉がタイトルにそのまま入っているので、どうしたって「ああ、フュージョンか、またか」という気分になるわけです。結局手を出さないまま月日は流れ、ある時購入したスイングジャーナルの増刊号でこのアルバムが強力に推薦されているのを目の当たりにして、己の先入観と不明を恥じ、アルバム探索に邁進しはじめたわけです。嘘です。本当は「見つけたら買っておこう」ぐらいに頭の隅においておいたんですがね。たまに覗きにいくヨネザワ商会で売られていたので購入しました。したがってLPです。

このアルバムはA面B面ともに1曲だけ入っていて、その1曲がそれぞれ20分を超える演奏になっているわけです。
A面はタイトル曲"Cumbia & Jazz Fusion"。Cumbiaとはコロンビアのことですが、同時にコロンビア生まれの音楽というかビートを指し、当然ながらラテンリズムです。冒頭、いきなり鳥の鳴き声が聞こえてきます。この時点でミンガスの「悪しき具象性」を思い出して不安が一瞬頭をよぎります。のどかなラテンリズムに乗って、ミニマルフレーズを畳み掛けるようにオーボエが演奏しますが、オーネット・コールマンの『ダンシン・イン・ユア・ヘッド』ほどしつこく畳み掛けないし、メロディーのスパンも長めで変化に富んでいます。やがてミンガスの掛け声が入り、リズムだけになった後ソプラノやバスーン、トランペットなどがベースのリフレインフレーズの上で演奏されますが、まだテーマです。この辺はフレーズをみんなでコールアンドレスポンスしている仕様となっています。

そして一転、のどかな中南米の雰囲気を破るように都会的なアンサンブルが始まり、まずはトランペットが先ほどのテーマフレーズを徐々に解体して、「ジャズ」にしていきます。このペットはジャック・ウォーラス。続いて同じ手法でテナーがアラビックなスケールや重音、フラジオを駆使しつつテーマを変容させていきます。そして、再びアンサンブルを打ち出した後は、4ビートでテナーが存分に「ジャズのアドリブ」をしてくれますが、この開放感!その後テンポを落として、ペット主導のメロディアスなアンサンブルになるのですが、ここははっきりいってエリントン色全開です。この後フリーなピアノソロを経て出てくるトランペットとアンサンブルもエリントンのジャングルスタイルの現代版という感じですが、かなりいいです。トロンボーンのジミー・ネッパーがワーワー言わしています。このあたり、ずーっとミンガスのベースが高鳴りをしていて、それが演奏全体の推力になっています。私は上のアンサンブルから、この辺りまでがこの曲で一番好きな部分です。やはり4ビート主義者なのかもしれません。

次にドラムのダニー・リッチモンドを中心としたパーカッションの出番になります。パーソネルを見ると3人もパーカッションがいてどれがどれだか区別つきませんが、わりと長めの打楽器による交換が行われています。次に、フルートを交えて皆でラップみたいなことを始めます・・・この後、御大のベースソロ。乗っていますね。

この後はフルート中心のアンサンブルを挟みつつ、ボントロ、ピアノ、ベースと流れるように整然とソロを取っていく正調4ビートジャズが続き、最初のコロンビアはどこへ行った?と訊きたくなるほどニューヨークの雰囲気を保ったままエンディングを迎えます。このことについてミンガスはこう述べているそうです。

コロンビアでは山に住むインディオは貧しく、時々街におりてきては金持ちたちの唄をうたう。なにももたないこと、もちすぎていることの違いをうたった唄だ。それがわたしをとらえて、アメリカのゲットーに思いを馳せさせた。というのは、ゲットの黒人たちだって、金はないからね。それに、彼らだって望んでいるんだ、わたしがうたうような"人生のいいものをすべて"。

もっとも、ミンガスの発言には耳を塞いだほうが、その音楽が良く見えてくるという側面が大きいのですけれど。しかし、こうも多彩に、そしてめまぐるしくテクチュアリティーが変化する曲を、変化に従って記述するのはくたびれますね。しかも切断の仕方が時に唐突過ぎて「そこでかい!?」という気分にもさせられます。ですが単なるキレイゴトに終わらないこれは、やはり本当の名演奏です。

B面の"Music for 'Todo Modo'"は『トド・モード』という映画のための音楽のようですが、私はその映画を知りません。曲の構成は、ムード的なスローテンポから速めの4ビート、そしてまたスローと変化はしますが、多彩さとテクチュアリティーの変化という点ではA面ほどではありません。しかしA面のように、何度か聴くと疲れるほど変化の激しい曲に対して、B面はむしろ聴けば聴くほど味の出てくるような美しくてロマンティックな演奏となっています。こちらのほうが安心して聴けますね。

いずれにせよ、これがずっと廃盤のままであるというのもまた、大きな損失だと思います。これもやはり権利関係のややこしさが原因なのでしょうか?しかし、アトランティックのミンガスといえば『直立猿人』をはじめ色々再発されているような気がしますが。再発を強く望みます。

Tags: bass · Mingus, Charles

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