1956 Series (4)
Ing4部作の中で私がもっとも気に入っているのがこの『リラクシン』です。世評的には「ヴァレンタイン」の魅力一発で『クッキン』の方に人気が集まっているようですが、個人的にはこちらを強く推しています。一頃は「最初に聴くべきジャズはなんですか?」と質問されると、決まってこのアルバムを推薦していました。理由としては、1)スタジオの雰囲気が良く捉えられている、2)ほとんどがミュート付きで演じられている、3)4部作の中ではもっとも「アルバム・コンセプト」が感じられる、ということです。
一曲目、"If I Were a Bell"が始まる前、録音ブースからスタジオへの声"Take one!" というのが捉えられ、その後あのビッグベンの鐘の音が演奏されるところ、さらに「ベル」が終わって、二曲目のバラッド"You Are My Everything"に進むとき、最初レッド・ガーランドがパラパラと単音でイントロを弾くと、マイルスが口笛を「ピィーッ」と吹いて止めさせ、「ブロック・コードで」と指示します。この辺のやりとりが実にジャズを感じさせるのです。
マイルスというとやはり、ミュート・トランペットです。ミュートとはラッパの先に差し込む金属製の筒のことで、これを差し込むと音がほっそりした独自の表情になるんですね。マイルスの場合、このミュート・トランペットの音がソロのフレーズとよく合っています。(あるトランペッターに訊くと、「ミュートのほうが音が出し易いんだよ」という話でしたが・・・)2曲目の"You Are My Everything"のミュート・サウンドは絶品で、マイルスが録音後ぐったりと疲れるのはアップテンポの曲ではなく、こういったスローテンポのバラードだといわれていますが、とても丁寧な音使いの演奏です。つづく "I Could Write a Book" もロジャーズ?ハートのコンビの作詞作曲によるスタンダードですが、ミュート演奏をしています。
4曲目はやはりミュートによる"Oleo"。いわゆるリズムチェンジの曲です。リズムチェンジというのは「アイ・ガット・リズム」のコード進行(チェンジ)を用いた曲で、そのため「リズムチェンジ」と呼ばれ、別名「B♭循環」とも言われます。無伴奏でマイルスがAメロを吹き、二回目でベースとドラムが入ります。Bメロ(サビ)はピアノ。その後のAメロはトレーンが吹きます。マイルスのソロのパートもかなりアレンジ色が強く、ドラムはとピアノはサビだけ入ってそれ以外のところはベースを従えてのソロとなっています。まさか、マイルスが「俺のソロのバックではピアノを弾くな、ドラムを叩くな」と言ったわけではないと思いますのでアレンジでしょう(笑)。しかし、こうしたアレンジのせいでグループ表現としてのまとまりが感じられ非常に面白い演奏になっています。
5曲目の有名なスタンダード "It Could Happen to You"もミュートで演奏されます。ここではマイルスもさることながら、コルトレーンがよく頑張ってすばらしいソロを繰り広げています。これは5月ではなくて10月の録音。コルトレーンの進歩が感じられます。最後の曲は "Woodyn' You"。ガレスピーの書いたアップテンポのバップ曲ですが、マイルスはこの曲だけオープンで吹いています。こちらも10月の録音ですがコルトレーンはあまりフレーズが構築されず、バラバラな感じで吹いていますね。同じ状況でもロリンズならそこに必然性が感じられるのですが、コルトレーンがバラバラなフレーズ吹くと単に「思い浮かばなかったんじゃないの」と思えてしまうのは偏見でしょうか?(笑)この後、「もう一回録らない?」というプロデューサーの声に対して、マイルスが"Why!"(「何でやねん?」)と応じ、その後ろでコルトレーンが「ビール、ビール」と言っているところが録音されています。しかし、私の持っているのとは違うCD(ここで紹介するのはひょっとするとそちらかも知れません)だと「栓抜きどこ?」という会話まで入っているそうです。生々しいですね。
最後の曲を除いて全部ミュートで演奏しているところや、ミディアム・テンポの演奏メインで収録されているところから、聴いてリラックスできるアルバムということで「リラクシン」と名付けられたのでしょう。この頃、まだアルバム・コンセプトという概念がなかった時代に編集ものとはいえここまでアルバム・カラーを統一したマイルスは『直立猿人』のミンガスとならんで先見の明があったと思います。
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