1956 Series (8)
ジャケットはアンディー・ウォーホル、単純な線画ながら非常に印象的なイラストです。私自身この絵が好きで、知り合いのギタリストに送った年賀状にこのイラストをあしらいましたが、色を付けてなんか卑俗な感じになってしまった思い出があります。やはり線画だからいいんでしょうね。また、某大学の学バンである某プリンス・マーシー(笑)が定演を知らせるタテ看に使っていたこともよく覚えています。リーダーはケニー・バレル。そしてタイトルも『ケニー・バレル』・・・これでは混乱してしまうので、日本では一般に "Vol. 2"をつけて呼ぶようになっています。Vol. 1は Introducing Kenny Burrell (Blue Note) ということなのでしょうか。
ケニー・バレルというギタリストは、黒いサウンドなんだけれど、かなり都会的に洗練されていていかにもNYのギターという感じがする人です。本当はこの年('56)にデトロイトからニューヨークに出てきたんですけれどね。だから上で述べたVol. 1にあたるIntroducing Kenny Burrell も'56年の録音です。「バレル上京して、ジャズ盛況を迎える」といった感じでしょうか。このアルバムはいくつかのセッションをまとめたもので、通算すると12人のサイドメンが参加していますがソロからクインテットまで、ライブセッションも含まれています。これはいわゆる「ブルーノート1500番台」ではよくあることなので気にせず話を進めましょう(笑)。
一曲目は "Get Happy"。スイング時代からのスタンダードでちょっと宗教的な感じの歌詞をもった曲です。ここではケニー・バレルとリズムセクション。ピアノがトミー・フラナガン、ベースがポール・チェンバース、ドラムがケニー・クラーク、そしてキャンディドのコンガが入ります。このコンガ入りというのは昔から評判が悪くて(笑)、古いジャズマニアの中には「一番好きなのはBN1500番台、ただしコンガ抜き」と主張して譲らない人がいました。これは以前にも触れた「4ビート神話」のせいで、「ジャズは4ビートがメインディッシュ!ラテンリズムなどはちょっとした箸休めみたいなもの」という思いこみがジャズ界、とりわけ日本のジャズ界にあるからでしょう。日本のジャズ界の母胎となった暗くて沈みがちな「ジャズ喫茶」という空間に、ラテンの陽気なサウンドが不釣り合いだったのかも知れません。いずれにせよ、ここでのコンガの起用は当を得ています。スイング時代とは全く異なったテンポとリズムでぐんぐん進んでいく演奏にキャンディドのコンガは欠かせません。ピアノのトミフラも煽られて攻撃的なソロをとります。ギターのあとキャンディドのコンガソロがとてもよく、最後にテーマに戻って唐突な感じで終わっているのがこの演奏の勢いを示しています。
二曲目の "But Not for Me" はガーシュウィンのスタンダード。バレルのギターソロです。ここではリズムの要素よりも、ハーモニーやメロディーの要素が中心となった演奏です。つづく "Mexico City"は前回取り上げたケニー・ドーハムの作曲。メンバーはケニー・ドーハム(tp)、モンテローズ(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、サム・ジョーンズ(b)、エッジヒル(ds)、ここにバレルが加わった演奏です。ここでジャズに詳しい人なら気づくと思いますが、この面子は『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』と全く同じ、同アルバムにも "Mexico City" が入っています。実は日にちが違うけれど同じメンバーのライブ録音です。『カフェ・ボヘミア』のテイクはドーハムが中心なのに対して、こちらではソロのスタートをバレルが切ります。ドーハムらしく哀愁感のある曲です。
私がこのアルバムを買おうと思ったのは四曲目、"Moten Swing"が入っていたからです。「モーテン・スイング」、このモーテンとはカンザス・シティービッグバンドの雄、ベニー・モーテンのことで同曲は彼のバンドのテーマ曲でした。彼らは30年代前半、禁酒法下で繁栄を極めたカンザスシティーを代表するビッグ・バンドでした。しかし、モーテンが運悪く扁桃腺手術の失敗により亡くなってしまうと、残されて路頭に迷いそうなメンバーをまとめて新しくビッグバンドを立ち上げたのが、そう、カウント・ベイシーだったわけです。従って、ベイシー30年代のライブ録音を聴くと、オープニングとクロージングにこの曲を演奏しているのが分かります。結構アップテンポなカンザス・ジャズのこの曲がここではスローのブルースで演奏されています。最初は期待はずれの感じがしましたが、何度か聴くとよい意味で期待を裏切られたということが実感できました。テーマが終わったあとに「ドゥディドゥディダ」と入るトミフラのソロは絶品。「ダウン・トゥー・アース」という言い方がありますがまさにそういう演奏の上に、トミフラの持つある種の上品さが上手い具合にミックスされています。バレルもバレル節全開でカンザスの肥やしとは無縁の都会的なソロをとります(笑)が、根底にブルースのフィーリングが流れていて心地よい。最後はベースの名人オスカー・ペティフォードをフィーチャーした感じのテーマを演奏して終わります。やはり正直に言って、このアルバムはこの曲一発の魅力だと思います。
五曲目の"Cheeta"はチータのような俊敏さを強調したバレルの作曲。リズム・チェンジです。メンバーは四曲目と一緒。ギター、ピアノ、4バースと進む典型的な循環曲の演奏です。六曲目のブルース "Now See How You Are" ではベイシー・バンドにいたフランク・フォスター(ts)が参加していますが、ベイシー・バンドといっても「ニューベイシー」といわれる近代的なベイシー・バンドのメンバーなので違和感なく溶け込んでいます。ここでは岩石ベーシストペティフォードがソロを披露します。七曲目 "Phinupi"もバレルの曲。チョッパヤのテンポで全員が妙技を披露しています。この曲のコード進行なんでしょう?喉元まで出かかっているのに出てきません。最後の曲 "How about You"はスタンダード。バレルはチャーリー・クリスチャンのフレーズを出したりして余裕のソロ。トミフラは玉を転がすようなピアノソロ、フランク・フォースターも2コーラスソロをとっています。その後4バースを経てサクッと終わっています。
アルバム作りとしてはゴッタ煮的な印象がありますが、それはむしろ「イイトコドリ」とポジティブに考えると実によくできたアルバムです。おそらくスタジオではいつもの、何気ないセッションの延長で演奏されたのでしょうが、その一曲一曲が名演になってしまうのが'56年の魔力だと思います。
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