1956 Series (9)
The Prestige All StarsというのはSouthern All Starsのように恒常的なグループのことではなくて、たまたまその日スケジュールが空いていた人を集めてレコーディングし、適当につけたグループ名なのではないかと思います。続編として All Day Long そして All Morning Long が作られますが、それぞれメンバーが入れ替わったりしています。Prestige というレーベルのオーナーはボブ・ワインストック。ミュージシャンの伝記を読むと、「ボブはつくづく嫌な男だ」という点では多くの人が一致しているように、きわめて評判の悪い人です。一例を挙げれば、バド・パウエルがボブを下っ端と誤解して「おい、デブちん、サンドイッチ買ってきてくれ」といったのに腹を立てて二度とバドを使わなくなった、MJQ立ち上げの時ボブだけジョン・ルイスの良さが分からずにホレス・シルバーをごり押ししようとして結局MJQに逃げられる。あるいはジャッキー・マクリーンが告発しているように、このレーベルのギャラシステムは「レコーディングすればするほど借金がかさむシステム」、つまり諸経費だなんだといってギャラから引いていくので、ほとんどギャラはもらえない、等々。まあ生き残りの厳しい弱小レーベルを率いていくのにそれぐらいのあくどさは必要かも知れないし、ミュージシャンはなんでも大げさに言う傾向性があるので話も割り引いて聞かなければなりませんが、時代劇の「越後屋」を連想させる人物です(笑)。しかし、こうも評判のよくないボブのレーベル「プレスティッジ」が、万人から敬愛されるアルフレッド・ライオン率いる「ブルー・ノート」に匹敵するほどの傑作を作りだしていったことは、ジャズの不思議さ、社会というものの不思議さを示しているような気がします。
一曲目"All Night Long"。ざわついた中でドラムがチキチキ叩きだしケニー・バレルが探り探りブルースを弾きはじめ演奏が始まります。このあたりの雰囲気はどう聴いても高田馬場あたりで深夜にやっているセッションという感じです(笑)。しかし実際にここまでグルーヴしたセッションはなかなか無いです。ギターが終わるとフルート、ジェローム・リチャードソンです。フルートが入ると独特の雰囲気が出て、ファンキーな感じに聞こえます。実際のファンキー時代はもっと後、59年から63年あたりに来ますが、なんとなくその時代を先取りしているような感じです。ハンク・モブレーのテナーはいつものようにモコモコしていますが、それでも手慣れたブルースということで構成力を持ったすばらしいソロをとっています。続いて出てくるドナルド・バードのトランペット、出だしはクリフォードそのものです。今度はテナーに持ち替えたリチャードソンがしょっぱい音色で入ってきます。ピアノのマルはパッカーシブでちょっとモンク風のソロ。最後に4バースをやって終わります。演奏時間17分12秒。この一曲だけで十分な内容を持っています。LP時代このレコードはこの演奏を聴くためのモノで、一曲目以外はおまけという感じで聴いていました。二曲目の"Boo-lu"。ライナー・ノーツを読むとアルジェリアの夜行動物のことだと書いてありますが、確かにマイナーキーで「チュニジアの夜」に似た北アフリカのイメージを持った曲です。続く"Flickers", "Li'l Hankie"もマイナーでそれらがB面に密集していたのであまり印象に残らなかったのかも知れません。
LP時代には収録されていなかったCDボーナストラック、"Body and Soul"はいいですね。ケニー・バレルのイントロを経て出てくるドナルド・バードによるテーマは輝かしさと哀愁の翳りを持ったサウンドでかなり自由に崩した演奏です。サビの部分からはダグ・ワトキンスのベースが取り、そのまま後メロまで弾きます。ソロの先発はギターのケニー・バレル、フル・コーラス取ります。続いてリチャードソンのフルート、ハンク・モブレーのテナー、マルのピアノが半コーラスずつソロをとり、サビからドナルド・バードに返して終わります。かなり遅めのテンポなので全員がフルコーラスでソロをとったらだれてしまうでしょう、半コーラスずつに分けたのはアイデアだと思います。
一聴するとセッションの延長のような何気ない演奏ですが、よく耳をそばだてるとそこには形式化を遂げたバップである「ハードバップ」を作りあげつつある前進の息吹のようなものが感じられるきわめて優れたアルバムだと思います。これもまた'56年マジックなのかも知れません。
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