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Art Farmer: To Duke with Love (East Wind)

November 15th, 2007 · No Comments

To Duke with Love

日本のジャズ・レーベル「イースト・ウィンド」というと、ナベサダや菊地雅章、富樫雅彦ら日本の一流ジャズ・ミュージシャンに光を当てる一方、ザ・グレイト・ジャズ・トリオのアルバムでL.A.だか桑港だかの抜けるような青空をジャケットに使ったレーベルとして、私の記憶にはインプットされています。風景メインのあのジャケットは「時代がない」ように見えて実は非常に「時代がかって」いて、今見ると「ああ、あの頃流行のね」という感想がどうしても湧いて来るのが不思議です。風景の切り取り方にも時代性というかハヤリスタリがあるのでしょう。

今回紹介するアート・ファーマーの『トゥ・デューク・ウィズ・ラブ』はそのイースト・ウィンドで制作された名アルバムの一つで、1975年3月5日にニューヨークで録音されたものです。タイトルが示すとおりデューク・エリントンに捧げられたもので、彼はその前年の1974年5月24日に亡くなりました。メンバーはアート・ファーマー(flh)の他、シダ・ウォルトン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)という名人達です。プロデューサーは伊藤潔、伊藤八十八、それに守崎幸夫。

この頃の録音の特色として、レンジを広く取る代わりに音のエネルギーがないものが多くありましたが、これは普段のボリューム位置で聴くと薄く聴こえるけれど、ボリュームを上げていくと音全体がふんわりと厚くなり、サム・ジョーンズのベースもビリー・ヒギンズのシンバルも真に迫って聴こえてくるような名録音です。うちの安いキカイでもそうなのでよい機械を使えばもっとよく聴こえることでしょう(LPでの話です)。

A面1曲目 "In a Sentimental Mood"。ファーマーのフリューゲル・ホーンがどこか遠くへ呼びかけるような音色で哀愁あるテーマを演奏し、そのままソロに。バックのベースとドラムの張り切り方が凄い。

2曲目は "It Don't Mean a Thing"、「スイングしなけりゃ意味がない」です。ベースのテーマから入り、フィル・インで全員が合奏に突入します。ソロの先発はシダ・ウォルトン。エリントンを意識したかのようなソロです。続いてファーマー。ここでもウォルトンのコンピングが独自の色合いを出しています。続くベース・ソロを経てテーマに返します。ラッパとドラムが「ユニゾン」でテーマを演奏し終えます。実に名演。

3曲目の "The Star Crossed Lovers" はシェイクスピア・フェスティバルにエリントンが書き贈った曲で、『ロミオとジュリエット』をテーマとした曲だそうです。このタイトルの出典は有名で、同戯曲のプロローグで述べられる "From forth the fatal loins of these two foes, a pair of star-cross'd lovers, take their life"(お互いを仇と憎むこの両家から、この星回りの悪い一対の恋人は、生を受けたのでございます) という詩行からきています。半音進行を伴ったなんともいえぬ味わいと懐かしさを持った曲で、フリューゲル・ホーンの音色とも相性がよく、素晴らしいバラード演奏に仕上がっています。続くウォルトンのピアノも上手い。鍵盤を連打しながらアドリブを盛り上げるや、一転ブルース・フィーリングあふれたソロに切り替えるところなんか息を飲みます。

B面は1曲目が "Brown Skin Gal in the Calico Gown"。イントロのウォルトンがエリントンにそっくり。テーマはAメロでドラムがシャッフルを叩き、Bメロが4ビート。ソロに入るとダブル・タイムになりますが、なんと言うかウォルトンのコンピングとヒギンズのドラミングのために、小さなエリントン楽団がそこで演奏しているようです。面白いことにピアノ・ソロになるとエリントン風味は消して、シダ・ウォルトンそのもののアドリブとなっています。

2曲目は有名な "Lush Life"、ビリー・ストレイホーンの曲。曲そのものが美しいので余計な色をつけずに、フリューゲル・ホーンの魅力全開で演奏しています。この楽器はどこか孤独の翳りをもった音色なんですね。それが曲想とマッチしています。

3曲目の "Love You Madly" はエリントンの口癖をそのまま曲名にしたもの。マイルスも "He Loved Him Madly" という曲を書いてエリントンに哀悼の意を捧げています。ミディアム・スイングの演奏だけれど、テーマはフリューゲル・ホーンとミスマッチ。ただ、アドリブに入ってからくっきりとしたラインを描き出すファーマーはさすが。途中ダブル・タイム・フィーリングをはさみ熱いソロを取っています。

CD化もされているようです。別テイクの追加などはないようですが、オリジナル6曲でも充分価値のあるアルバムだと思います。ファーマーが吹いているのはフリューゲル・ホーンですが、便宜上トランペットに分類しました。

Tags: Farmer, Art · trumpet

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