大阪で行われている世界陸上で活躍したアメリカ短距離のスーパー女子大生、アリソン・フェリックスという可愛らしい選手がいますが、彼女がどことなくリー・モーガンに似ているように見えて仕方ありません。笑うと可愛らしくてそれほど似ていないのですが、緊張しているとそのままトランペットを吹き出しそうな感じです。まあ、大げさに言っていますけれどね 8)
このアルバムはリー・モーガンのワンホーンものとして有名で、彼独自の甘くてちょっとワルなフレーズを堪能できる名盤です。吹き込み当時、弱冠20歳だったことも驚異的です。その後に続くジャズ天才少年のはしりといえるでしょう。メンバーはリーのほか、ソニー・クラーク(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds)、吹き込みは57年11月と28年2月の2つのセッションです。
1曲目はタイトル・チューンの "Candy"。リーの演奏を聴いていると「キュッキュッ」というようなすぼまった感じの音がよく聴こえるので、トランペッターに訳を訊くと、これは「ハーフ・バルブ奏法」といい、バルブを半分ぐらいまでしか下げずに息の詰まったような音を出す技法とのことでした。サックスにも「ハーフ・タンギング」といって、音を弱めるような軽いタンギングの奏法がありますが、これはアクセントのメリハリを息ではなくて舌でつけるための技法。一方のハーフ・バルブは音色に変化をつける技法でベンドやギターでいうチョーキングに近いそうです。
"Candy" はスタンダードですが、曲想とリー・モーガンの特質が見事にマッチしていて、彼のために書かれた曲だと思えるほど。ドラムのイントロのあと、リーのテーマに続いて、まずはソニー・クラークが先発ソロ。3連多用の球を転がすようなソロです。続いてリーのソロ。彼の持ち味が全開になったソロですが、最初中音域で渋く抑えておいて徐々に盛り上げていく構成で20歳とは思えない巧みなソロです。この曲では、アート・テイラーのブラッシュが大活躍しています。
2曲目の "Since I Fell for You" はR&Bのヒット曲。スタンリー・タレンタインが『ブルーアワー』でも取り上げていますが、ダウン・トゥー・アースな演奏。ピアノソロを経て聴こえてくるリーのソロはあちらこちらで引用されている有名なものです。
3曲目 "C.T.A." はジミー・ヒースの作曲の循環。マイルスがブルー・ノートに吹き込んだ演奏でも有名です。循環らしく、みな元気なソロを取っています。
4曲目はジェローム・カーンのスタンダード "All the Way"。スローな曲ですが2曲目のダウン・トゥー・アースな曲と違って哀愁のあるメロディーを持った曲を、リーはその哀愁を損なうことなく吹き上げていきます。先発はソニー・クラーク。コードの広げ方がレッド・ガーランドを意識したような感じもしますが、右手はやはり3連多用の彼独自のものです。リーのソロは "I Remember Clifford" のソロを髣髴とさせるような心のこもった綺麗なフレーズの連発で、味わい深い。酒場の隅で呑んでいて、こういうのが聴こえてくると、参ったという気持ちになりますね。
軽快で世俗的な曲の "Who Do You Love I Hope" が5曲目。これもスタンダード。リーのソロは冒頭からハーフ・バルブを多用してます。盛り上げつつリフを駆使し華麗なソロを取ります。6曲目 "Personality" もスタンダード。これも世俗的で小唄調の曲ながら、ソロに入ると世界が広がった感じがします。曲想に引っ張られずに楽想を展開していくリー・モーガン。見事としか言いようがありません。
おそらく、この若さと実力、そして「キャンディー」の可愛らしさから、アリソン・フェリックス嬢を連想してしまったのかもしれませんね。名盤でコンスタントに手に入りますが、来年ぐらいに日本では再発されるようです。下のCDは輸入盤です。
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