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Bill Evans: Waltz for Debby (Prestige)

September 18th, 2007 · No Comments

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ビル・エバンスの来日公演に出かけました。モダン・ジャズにやっと開眼したばかりだったのですが、家族が新聞を見て「ビル・エバンスという人が来るから、聴きに行きな、お金は自分で工面しな」と無茶振りをしたので、手持ちのお金を遣ってチケットを取り寄せ、またいつも行っているレコード屋で「ビル・エバンスって人の代表作を下さい」とアドバイスを貰って『ポートレイト・イン・ジャズ』を買い、それを何度も聴いて予習をした後、勇んで芝の郵便貯金ホールに出かけました。しかし、残念なことにこの日コンサートは中止になっていました。前日にビル・エバンスが急死したからです。代役も立っていたのですが、払い戻しに応ずるというので払い戻しをしてもらい、後日そのお金を遣って購入したのが、Riverside4部作の一枚である『ワルツ・フォー・デビイ』でした。

打ちのめされました。この世にこんな美しいピアノがあるのかと。冒頭の "My Foolish Heart"。曲そのものを知りませんでしたし、何をやっているのかも正直わかりませんでしたが、果てしなく美しく、そして力強い。2曲目の "Waltz for Debby" がこれまたすごい。イン・テンポに入ってポール・モチアンのドラムがシャーシャーと入ってくるところなんか、今聴いてもトリハダ物です。その頃はまだインタープレイの妙味など分からなかったので、ベースはソロに聞き耳を立てていましたが、これもギターのように旋律性が高くて驚きました。そして何がよいといって、クラブの雰囲気がよく出ているところ。私語が後ろのほうで聞こえています。私も含めてたいていの人は、この2曲で打ちのめされます。

3曲目 "Detour Ahead" はぼんやりとした輪郭のテーマ弾きから始まるので、背後の私語やグラスの触れ合う音がよく聞こえて自分もヴィレッジ・ヴァンガードにいるような気持ちになる演奏です。後半になると徐々に盛り上がっていくところも上手い構成です。

B面の "My Romance", "Some Other Time" もこれまでのムードの延長線上にある名演です。最後の曲、マイルスの "Milestones" はアップ・テンポで演奏され、少しムードの方向は違いますが名演です。寺島さんが『チェット・ベイカー・シングス』は一つの組曲で、「ヴァレンタイン」はいわゆる「サマータイム」だと書いていましたが、『ワルツ・フォー・デビイ』にも全く同じことが当てはまります。全体のムードが統一されて、全部で1曲として聴けるわけです。それもそのはずでこのレコードは、ビル・エバンス、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)のトリオによる、マンハッタンのヴィレッジ・ヴァンガードでのライブを編集したもので、ムードの統一を図った編集がなされているわけです。対になる『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』はもう少しバリエーションがあり、スコット・ラファロとのインタープレイにもさらに焦点が当たっています。録音は61年の6月25日。この直後の7月6日、ラファロが急死することで、このジャズ史上最も重要なトリオの一つはその歴史に終止符を打ちます。

後になって分かったことですが、晩年のエバンスはかなりムズカシ的な演奏をしていたようで、あの時実際にコンサートを聴いて初心者の私が理解できたかどうかは不安です。しかし、それでも生エバンスに会えなかったことは今でも残念でなりません。

CDになってからボーナス・トラックが追加されています。このアルバムは名盤過ぎて、CD・アナログともに音質からジャケットまで様々な付加価値をつけた商品が出回っていますが、下のリンクは近く再発される通常盤です。

Tags: Evans, Bill · piano

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