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Billie Holiday: Last Recordings (Verve)

August 20th, 2015 · No Comments

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白鳥の歌と名高い『レディー・イン・サテン』から『ラストレコーディングス』の間に、ビリーは英国へ渡り貴重な動画を残す。

ヴァーヴに移ってから、ノーマン・グランツの勧めもあって習得した、後期ビリー・ホリデイの十八番である。第一コーラス目はほぼ原曲通りの歌い方だが、2コーラス目に入ってからの大胆なインプロビゼーションはどうだろう?「自分の人生を歌いながら、それを鮮やかに歌い飛ばす」晩年の彼女の面目躍如ではないだろうか?

同じことが、今回取り上げる『ラスト・レコーディングス』にも当てはまる。『レディー・イン・サテン』があまりにも内向的な曲想が続くのに対して(だからこそ、一枚のアルバムとして統一感があるのだが)、このアルバムは3回のセッションを集めたものであり、内容にも多様性がある。

1. All Of You
2. Sometimes I'm Happy
3 You Took Advantage Of Me
4 When It's Sleepy Time Down South
5 There'll Be Some Changes Made
6 'Deed I Do
7 Don't Worry' Bout Me
8 All The Way
9 Just One More Change
10 It's Not For Me To Say
11 I'll Never Smile Again
12 Baby Won't You Please Come Home

"All of You" はミディアムテンポで"スイーツ"のオブリガートをバックにワンコーラス歌い、中間にアル・コーンのテナーソロを挟み再びワンコーラス。アル・コーンは「アンサンブル化されたレスターヤング」とも呼ばれるフォーブラザーズの一員のためか、レディーとの相性も良い。
2曲目の "Sometimes I'm Happy" は、そもそもがレスターの名演で知られる。この演奏が吹き込まれたのが1959年3月5日なのだが、その10日後の15日、パリから満身創痍で帰国したレスターがこの世を去る。不思議な因縁か、ここでのレディーは最晩年としては素晴らしい出来を示している。冒頭はジーン・クイルのアルトとジミー・クリーブランドによるトロンボーンの掛け合い。その後二人とスイーツををオブリガートに従えてワンコーラス、メロディー通りに歌う。セカンドコーラスはメロディーを大胆にくずしてインプロバイズし、エンディングはリフレインで締める。
3曲目の "You Took Advantage Of Me" はローズマリー・クルーニーの代表曲。比較的アップテンポで歌い流している。
4曲目 "When It's Sleepy Time Down South" はサッチモの名称で知られる曲であるが、情感深く歌い上げ、とくにトロンボーンソロの後は印象的なメロディーで入る。
5曲目 "There'll Be Some Changes Made" は20年代の古い曲であるが、ここではテンポを落とし、なおかつブルージーに歌い上げている。さいごフェードアウトしているのはどういうこと?
6曲目 "'Deed I Do " も古い曲だが最近ではダイアナ・クラールが歌うなど息の長いスタンダード。

7曲目 "Don't Worry' Bout Me" こそ、このアルバムのキモであり、レディー晩年の私小説的世界を打ち破ろうという息吹が感じられる名称である。歌詞は:

Don't worry 'bout me
I'll get along
(Just you) forget about me
Be happy my love

[Just] Let's say that our little show is over
And so the story ends
Why not call it a day, the sensible way
And [we'll remain] still be friends

Look out for yourself
Should be the rule
(Just) give your heart and your love
To whom ever you love
Don't you be a fool

[Baby] Darlin why [stop and] should you cling
To some fading thing
That used to be
(So) if you can't forget
Don't you worry 'bout me
(Read more: Billie Holiday - Don't Worry 'bout Me Lyrics | MetroLyrics)
冒頭で紹介した "Please Don't Talk about Me" と同じく、この頃の彼女の心境と上手く一致した歌詞で忘れられない感動的な名唱となっている。中間のアルトソロもよい。
この後8-11は、バラードがつづき、イメージとしても『レディー・イン・サテン』に被るので詳しい批評は省略。

最後の曲 "Baby Won't You Please Come Home" はビックス・バイダーベックの時代から演奏されているジャズスタンダードの名曲だがビリーとしては初吹き込み。ここでのビリーもブルージーに歌い、2コーラス目はインプロバイズしてグルーブを演出している。吹き込みは文字通りラスト、曲順でもラストだが、曲を吹き込むのはファーストなのである。この辺りがビリーの意欲を感じさせて好きだ。

これらの吹き込みの数日後、レスターの訃報に接し、さらに彼の葬儀で歌うことも許されずに、いよいよ彼女は精神面でも健康面でも急な坂を転げ落ちるように衰弱し、1959年7月17日、その人生に終止符を打つ。

『ラストレコーディングス』と聞くと人は彼女の人生と重ね合わせ、悲惨な人生の悲惨な録音を思い浮かべるかも知れない。しかし当然のことだが「ラストレコーディング」というのは会社側がつけたタイトルであって、ビリー自身が「ラスト」という意識で吹き込んだわけではない。そしてライブでは歌っていたのかも知れないが、初録音となる "Baby Won't You Please Come Home" など、アルバムタイトルとは反対にまだまだ前進する意欲を感じるアルバムなのだ。

一応、これでビリー・ホリデイ・シリーズは完結となる。書き始めたのが2009年だから足かけ7年になる。その間、地震を含め様々なことが身に周りに起きたが、今年が彼女の生誕100年に当たるのでなんとか書き上げようと決意した次第。

まだちょっとしたライブからちゃんとしたライブアルバムまで取りこぼしもあるのだが、それはおいおい追補(appendix)という形で書き足していこうと思っている。ちなみにWordpress(このブログのプログラム)の最新アップデート版4.3もコードネームは "Billie" (当然ビリー・ホリデイの意)であり、ここにも不思議な符合を感じる。

Tags: Holiday, Billie · vocal

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