ウィントン・ケリーがマイ・ベスト・フェイバリット・ピアニストであることは以前の記事にも書きましたが、その中でも最も優れているのが『ケリー・アット・ミッドナイト』であるのに対して大衆的な魅力は『ウィントン・ケリー(邦題『枯葉』)』にあると書きました。たしかに『ケリー・ブルー』という、より人口に膾炙されている名作もあるにはあるのですが、あのタイトル曲「ケリー・ブルー」は時代がついている。一方、この『枯葉』に聴かれるようなピアノソロは今でも十分通用するし、今でもこれほどスイングしているピアノはなかなか聴かれないのが事実です。
このアルバム、メンバーはウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、サム・ジョーンズ(b)、ジミー・コブ(ds)です。
1曲目の "Come Rain or Come Shine"。ビル・エバンスの演奏が実にシンネリ・ムッツリしているのに対して、ケリーのそれは実に跳ね回って楽しそうです。邦題「降っても晴れても」という割りに晴れが続いているようです(エバンスは雨続きのようですが)。2曲目はバラード "Make the Man Love Me"。歌伴の得意なウィントンですが、歌に丁寧なコンピングを施しているような名演になっています。
そして、タイトル曲の「枯葉」。これ、普通に使うコードとは若干違う解釈をしているんですよね、Bメロの部分が。まあ、それにしてもビル・エバンスとは別の行きかたを取りながら、これはこれでやはり潤みや哀愁のある名演に仕上がっています。
続く "Surrey with the Fringe on Top" (「飾りのついた4輪馬車」)も軽快なテンポながらも、イントロなんかエバンス風で笑います。やっぱり意識していたんでしょうね。しかし、アドリブに入ると、これはもうウィントンとしか言いようのない、個性全開のスイングするピアノに変わるところがまたよい。
5曲目 "Jone's Avenue"、6曲目 "Sassy"は共にケリーのオリジナル。後者はサラ・ヴォーンの愛称で、彼女に捧げられた曲だそうです。どちらも、オリジナルということもあって『ケリー・アット・ミッドナイト』に収められていそうな「乗りのよい」曲想です。
"Love I've Found You"はバラードで、しみじみとした曲想の中に左手の力と右手のつけるおかずも綺麗で、ケリーの絶頂期が捉えられています。バド派なんだけれど、バドのようにメランコリックではないケリーの魅力全開のトラックだと思います。続く "Gone with the Wind" はジミー・コブのドラムの妙技も聴けるスタンダード。ウィントン以上に歌っているドラムが魅力です。4バースにも聴かれますが、それ以前にウィントンのアドリブの背後に聴かれるドラムが魅力を振りまいています。
最後の曲 "Char's Blues" は冒頭にミキサー室の声が入ったあと、軽快なブルースが始まります。ウィントンらしく華麗なピアノソロに続いて、サム・ジョーンズのベースソロも聴くことができます。
ウィントン・ケリーの絶頂期を捉えたジャズ・ピアノファン必携の一枚です。
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