昨年12月にオスカー・ピーターソンが亡くなりました。彼はライオネル・ハンプトン、ベニー・カーターと並んで、決して亡くなることはないジャズマンと思っていたのでびっくりしました。もっとも82歳ということで、あの巨躯を支えて来たことを考え合わせれば、大往生といえるのではないでしょうか。オスカーPの作品は枚数も多いので、今回は特に私の好きな1枚を紹介します。
この The Way I Really Play(邦題『オスカー・ピーターソンの世界』)はMPS (Music Productions of Stuttgart) 時代の最高傑作として評判の高いアルバム。さらに、このレーベルは音がよいので、ピーターソンのテクニックが余すところなく捉えられているといわれています。録音は1968年4月、ドイツ、フィリンゲン。ハンス・ゲオルク・ブルナーシュワー・プライベート・スタジオというドイツらしく長い名前のスタジオ録音ですが、スタジオ・コンサート風にリスナーが入っていて拍手などが聴こえます。メンバーはピーターソンのほか、サム・ジョーンズ(b)、ボビー・ダーハム(ds)のピアノ・トリオ編成。
1曲目 "Waltzing Is Hip" はタイトルどおり3拍子の曲ですが、ピアノのレンジをフルに使ったダイナミックで乗りに乗った演奏と、それをしっかりと捉えた録音に驚きます。このガンガンに飛ばす高テンションの1曲目から、実にリラックスしたムードの2曲目 "Satin Doll" へと繋がるところが特に好きで、何度もテープを逆戻しして聴いたものです。
実はこのアルバム、中学生の頃に近所のレンタル・レコード店で借りてテープにダビングして、そのテープを長い間聴いていました。思い返すと、当時はレコードをレンタルしていたんですね。CDとは比べ物にならないほど繊細な扱いを要求するレコードで、こちらも出来るだけ傷をつけないように「お借り」して、家に帰るとすぐにテープにダビングして、再び仕舞い、翌日返しに行ったわけです。とはいえ、私がレンタルで済ましたジャズ・レコードはこれぐらいしか覚えていないので、ジャズ・コーナーはあまり充実していなかったんじゃないかと思います。当時猖獗をきわめていたフュージョンなら割とあったのかもしれませんが、今と違い不寛容だった当時は見向きもしなかったので覚えていません 😀
その「サテン・ドール」が、リラックスしたムードで実によい。10分近い演奏なんですが全く飽きさせることなく、ピアノを目一杯に使ったフルレンジのオーケストラルな演奏から単音でシンプルに展開するソロ、可憐な音使いで小さく花を咲かせたと思えばブルージーにやくざな音を多用してみたりと、自在にピアノをコントロールしています。「この時間がこのまま続いてくれれば」と思わせる素晴らしい演奏です。ただし、キース・ジャレット顔負けの唸り声が入っています 8)
3曲目は "Love Is Here to Stay" 。ライナー・ノーツでいソノてルヲさんが「アート・テイタム風のイントロ」と書いていますが、全くその通りで華麗に球を転がしています。リズムが入ってくるとミディアム・テンポになりテーマを終えた後のアドリブは、これまたジャズ・ピアノのショーケース。「サテン・ドール」ほど長くありませんが、よくまとまった作品です。4曲目の "Sandy's Blues" はピーターソンのオリジナル。「サンディー」とはサンドラ夫人のこと。タイトルどおりのブルースで、リラックス・ムードが横溢しています。途中からテンポアップしてブギ、速弾き、コード弾きと様々な技巧を駆使してエリントンが呼んだように「鍵盤の大王」の貫禄を見せつけ、再びテンポを落としてブルースになります。この辺の緩急のつけ方も心憎い1曲。
5曲目はディズニー映画の名曲 "Alice in Wonderland"。1曲目と同じくワルツです。ビル・エバンスもこの曲で名演を残していますが、聴き比べればジャズ・ピアノ2大スターの個性の違いがよく分かるでしょう。ラスト・ナンバーは再びOPオリジナルで "Noreen's Nocturne"。ノクターンとは名ばかりで、夜にかけたら目が覚めてしまうほど景気のいい曲。サム・ジョーンズがギリギリとベースを掻き鳴らし、ボビー・ダーハムが太鼓を連打して演奏を盛り上げています。
私も現在はテープでなくCDでこれを楽しんでいます。
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