クリフォード・ブラウンの吹く「アイ・リメンバー・クリフォード」が聴きたいという笑い話が、ジャズ界にはあります。似たような話に、バディー・ボールデンの吹く「バディー・ボールデンの思い出」が聴きたいというのがありますが、どちらも故人を偲んで作られた曲なので、当人の演奏は聴ける筈もないところがポイントなわけです。おまけに、バディー・ボールデンにいたっては伝説だけで録音が残っていないので二重におかしい話となります。これをヒントにして「Youの歌う "I Remember You" を聴きたい」といったら、「だったらYouに頼めばいいじゃないか」と言い返されたことがあります。違いない。ちゃんとものを考えてから発言しないといけませんやね。
アリソン・フェリックス嬢の活躍を祝して、リー・モーガンを続けて紹介します。名曲 "I Remember Clifford" は、クリフォード・ブラウンの急逝の後、ベニー・ゴルソン(ts)が彼を偲んで作曲し、このアルバムでリー・モーガンが吹き込みました。あまりにも哀切極まりない曲想で大ヒットし、その後様々なミュージシャンが吹き込みました。ピアノ、テナー、ギターと様々な楽器で演奏されますが、やはりクリフォードをイメージした曲のせいか、トランペットでの演奏にその華があると思います。
このアルバムは全曲ベニー・ゴルソンによる作曲で占められています。ベニー・ゴルソンの作曲の腕は素晴らしく、魅力的な楽想の曲を数多く生み出しているのですが、不思議なことにテナーの演奏となるとさっぱりです。決してヘタではなく、楽器のコントロールもできているのですが、全然爆発しない、旋律性が感じられないジタジタした感じのソロになるのが不思議でなりません。メンバーはリー・モーガン(tp)、ジジ・グライス(as)、ベニー・ゴルソン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds)のセクステット(6重奏団)編成。57年3月のセッションです。クリフォードが亡くなったのは前年の6月です。
1曲目 "Hasaan's Dream" はイントロこそ中近東の雰囲気を出していますが、テーマに入るとマイナーブルースで、やがて来る「ファンキー時代」すら予感させます。それもそのはずで、ファンキー時代の重要な要素の一つが「ゴルソン・ハーモニー」つまり、ベニー・ゴルソンの作り出す和声進行なのです。ソロの先発はリー・モーガン。はつらつとしています。続いてジジ・グライスのアルト。最初は突拍子もない大胆な入りをしますが、後はなんとなくジャッキー・マクリーンのよう。ゴルソン先生は、まあ吹いています。
2曲目 "Domingo" はベニー・ゴルソンの先発。コールマン・ホーキンスのようなソロを取っています。続くリー・モーガンはやはりいいのですが「パーララ、パーララ」とクロマティックで上がっていく、初心者風の手癖がちょっと目に付きます。ジジのアルトは相変わらず軽い音色でちょっと不思議なフレーズを吹いています。ウィントン・ケリーのソロもいまいち爆発していません。
3曲目にして永遠の名曲 "I Remember Clifford"。テーマ演奏もさることながら、アドリブに入っても、元の曲想と馴染んで突飛な感じがせず、それでいて頻繁に裏に入ってもいる。実に上手いアドリブで、これが19歳の少年の演奏とは思えません。続くウィントンのピアノ・ソロも倍テンで軽快に弾き、元曲に変化をつけています。後テーマも哀愁が深く実によくできた演奏です。
4曲目 "Mesabi Chant" は34小節の構成で13-8-13という変わった構成です。そのせいかサビの入りでジジなど躓いているところもご愛嬌。これでゴルソンまで躓いたら洒落になりませんが。しかし8-12-16-32と聴き慣れている耳には、一瞬「え?」と感じさせる曲ですね。5曲目 "Tip Toeing" はいわゆるファンキーナンバーで16小節。ポール・チェンバースの地面にめりこむようなソロから、ゴルソンの吹き荒ぶテナー、またも入りが奇妙なジジのアルト、おどけたようなリーのペット、ブルースフィーリング溢れるウィントンのピアノを経て、ベース・ドラムのブレークを挟んでテーマに戻ります。
他の曲も悪くはないのですが、やはり "I Remember Clifford" 一発の魅力でこのアルバムは持っています。しかし、この1曲だけでもアルバム全体の価値に匹敵する、そんな名曲です。今月再発盤が出る予定です。
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